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〈本の紹介〉 朝鮮近代文学選集2 「人間問題」

 最近平凡社から、早稲田大学名誉教授・大村益夫訳による姜敬愛の小説「人間問題」が出版された。

 日本語による姜敬愛の作品は、これまで「地下村」「菜田」「原稿料二百円」「塩」「長山串」など短編、中編小説があるが、長編小説「人間問題」は初訳で、この朗報を心からよろこんでいる。

 それは第一に、この作品が解放前朝鮮を代表する女性作家、姜敬愛の代表作であること、第二に李箕永の「故郷」と並んで1930年代プロレタリア小説文学を代表する貴重な文学遺産の一つであるからだ。それに本書が、1934年の「東亜日報」新聞紙上に連載されたものを底本として翻訳され、姜敬愛生誕100周年にあたるこの年に出版されたことだ。

 本書はなによりも、長年にわたり朝鮮文学を研究してきた訳者が、姜敬愛とその文学に対する深い理解の上に、努力を惜しまず丹念に翻訳した書として読み応えがある。

 姜敬愛は、植民地時代不遇な家庭に生まれ育ち、故郷と異国の地で目撃し体験したことをもとに、貧しく抑圧される人々が幸せに暮らせる社会を切に願い筆をとった作家である。このような姜敬愛の創作的理念が集大成されたのが、この「人間問題」である。

 訳者が解説の中で「人間問題」は「日帝時代、植民地朝鮮で、地主に対する農民、資本家に対する労働者の闘争を描いている。この作品には歴史を動かすのは、名もなき人々だ、政治家や有名文化人ではなく、留学経験のある人間でもない、普通の庶民だ、それも目覚めた庶民だという作者の思想があふれている」と指摘しているように、姜敬愛はこの作品で、当時朝鮮社会において解決すべき人間問題が階級的対立問題、無産者の生活と運命に関する問題であることを重要なテーマとして提起し、これを解決すべき担当者が労働者階級であることを、チョッチェとソンビの運命を通して解明している。

 また、シンチョルは、この問題解明においてなくてはならない人物だ。組織活動、恋愛で二重性を持ち、絶えず動揺、転向に至るシンチョル。作品は、生活に余裕のある彼とは対照的に「いかなる余裕もない」チョッチェ、ソンビこそ、無産者の運命を解決する担当者であることをレリーフしている。

 このような階級意識をリアルな人間形象を通じて描きだしている姜敬愛の文学が、決して「プロバガンダ小説ではない」という訳者の認識、これを訳文から十分読み取ることができる。

 また、「日本の支配が重くのしかかっている様を描きだしている」この作品が、日本の学者によって翻訳されたことは、教科書、靖国神社参拝問題などのいろいろな問題がある中で、朝・日両国民が正しい歴史認識の上で相互理解を深め、新しい関係を切り開くうえでも意義深い。

 これを機に、半世紀以上分断された歴史の狭間の中で、う余曲折の道を歩んできた姜敬愛の文学を、北、南、そして海外の研究者がともに語り合う日が早まることを願ってやまない。(姜敬愛著、大村益夫・布袋敏博編、平凡社、TEL 03・3818・0741)(呉香淑、朝鮮大学校文学歴史学部教授)

[朝鮮新報 2006.7.5]