〈朝鮮と日本の詩人-13-〉 大江満雄
ぼく達 雪の桑畠で鉄砲うった
朝鮮労働者とぼくが身震いしたのだ
話し合い とけ合い胸んなかをふるわす こ奴は鉄砲だ
赤城 榛名 妙義 浅間が見える
涙ってやつは感情の火薬だ
相手の男はぐいぐい歩いて行った
サヨウナラ−サヨウナラ 涙って云っているように 歩いて行った
ぼくは雪の中に無数のわれわれを感じた
この詩は大江満雄の「二人の放浪者じゃない」の全文である。詩人はこれを、群馬県南部に位置する藤岡でつくったといっている。発表は1929年に刊行された「学校詩集」である。詩人はこの時期に群馬県一帯を放浪している。その道すがらに朝鮮人労働者に巡り合い意気投合した瞬間を、第一行の「…鉄砲うった」と、激情的に表現したのである。朝鮮労働者は「タコ部屋」から脱走した勇気ある青年であったのだろう。詩人は、お互いに日本人であることを、そして、朝鮮人であることを強く意識しながら、民族をこえて人間的情愛をわかち合っている。「相手の男はぐいぐい歩いていった」という強じんなリズムは、朝鮮青年がある目的−故郷回帰−をもって旅しているのであって、決して「放浪者じゃない」ことを示し、詩人自身も詩的題材とモチーフを求めて創造の道を行くのであって「放浪者じゃない」のである。この詩からはナイーブなインターナショナリズムが読みとれる。
大江満雄は1905年に高知県に生まれ「詩精神」「歴程」「現代詩」などに作品を発表し、詩集「血の花が開くとき」「日本海流」で名をなした。理想主義者であるが現実に迫る意識が強く、キリスト教的なヒューマニズムを体現しながら、一時プロレタリア文学団体「ナップ」に加入したが、プロレタリア詩人たりえず、あくまでも理想主義的ロマン主義の詩風に徹した。(卞宰洙、文芸評論家)
[朝鮮新報 2006.7.7]