〈みんなの健康Q&A〉 社会不安障害/SAD(下)−治療法 |
Q:SADを放っておくとどうなりますか? A:前回も説明しましたが、SADをそのままにしておくと、やがては自分が恐怖を感じる場所に行くことを避けるようになります(これを「回避行動」と呼びます)。強い不安感が学校や職場で大きな影響を及ぼすようになり、場合によっては引きこもりや不登校、中退、退職といったケースに至ることも多く、日常生活に大きな支障をきたすようになってしまうこともあるのです。SADは、「強い不安」を感じる程度により、「全般型」「非全般型」「限局型」の3つのタイプに分けることができます。「全般型」はほとんど全ての「社会的状況」において「強い不安」を感じるタイプです。「非全般型」は2〜3の社会的状況において、また「限局型」は特定の1つのみの社会的状況において「強い不安」を感じるタイプです。なお、全般型の患者さんは、発症原因として「遺伝的要因」が強く、発症年齢が低い傾向にあるとも言われています。 Q:SADはどうして起こるのでしょうか? A:その原因として、「脳内にある『セロトニン』という神経伝達物質がSADの発症に関わっているのではないか?」と考えられているのですが、残念ながらまだはっきりとは分かっていません。また、刺激(≒社会的状況)に反応して体全体に危険信号を発信する「扁桃体」という「火災報知器」のような役割をする部位が人の脳にはあり、SADの患者さんは、ここが過剰に反応してしまい強い不安感や恐怖感を生みだしているのではないか、という報告もあるのです。 Q:治療法にはどんなものがありますか? A:SADの治療は大きく別けて2つあります。まず1つめはSSRIや抗不安薬を用いて治療する「薬物療法」で、2つめは心理的に治療する「精神療法」です。この2つの治療法は、それぞれの患者さんに合わせて単独で行われたり、組み合わせて行われたりしますが、実際の治療では、この2つの治療法を併用することが多いのです。薬物療法は不安感情を抑えることを主な目的としており、学校や職場を避ける、といった「回避行動」を減らし、不安時の身体的症状の緩和を図ります。現在、SADの治療にはSSRIという向精神薬による薬物療法が主流となっています。 SSRIは最近開発された抗うつ薬で、バランスを崩したセロトニン系だけに選択的に作用して、それを正常に近い状態に調整する効果があります。この薬は、服用後すぐには効果を発揮しませんが、数週間すると、それまでは強い恐怖心をもっていた状況に再び遭遇しても、恐怖心を感じにくくなる、といった効果があります。しかし残念ながら、現在行われているSSRIの治療が、全てのSADの患者さんに十分な効果が得られるとは限りません。ですがその一方で、多くの方たちがこの薬で症状が軽快していることも事実なのです。もしも今あなたがSAD症状でお悩みでしたら、まず、この薬があなたに合うかどうか試してみてはいかがでしょうか。ひとりで悩んでないで治療を受けてみてはどうでしょう? Q:性格的な問題もありますか? A:今回あえて私は「病気」という言葉を使いましたが、それもいかがなものでしょうか。たとえばみなさんは「花粉症」を「病気」だとか「…障害」と呼ぶでしょうか? 精神医学的に言うなら「病気」と呼ぶのでしょうが、病気ではなく、その人の「性格」(?…適当な言葉が思い浮かびません)というような、「微妙な存在」なのだと私は思います。もしあなたが花粉症のくしゃみ、鼻水、目の痒みといった症状がさして苦痛ではなく我慢できるのなら、わざわざ病院で受診してまで、抗アレルギー薬を飲むことはありません。しかし、仕事上、お客さんを相手に鼻水を垂らしたり、クシャミをしてばかりはいられませんし、それこそ相手の信用を無くしてしまうかもしれません。 それでも中には治療を受けても期待したほどの効果が得られず、「この程度しか効かないなら飲まなくてもいいや…」と思う方もいるかもしれません。しかし前回も説明したように、SADを発病するとほかの精神疾患(うつ病、アルコール中毒、パニック障害など)を併発する割合が70%を超えるとも言われています。ですからもしあなたにSADの症状が現れている場合には、なるべくお早めに専門医(精神科や心療内科)の診察を受けることをお勧めします。できるならばSADも「花粉症」程度に気軽に考えて下さい。もしあなたが「花粉症」の症状が我慢できなければアレルギーの薬を試してみればよいのです。そしてそれはSADにも同じことが言えるのです。 これまで、いろいろと言ってきましたが、これらはみなわれわれ精神科医が日常の治療現場で経験していることなのです。最後に繰り返しになりますが、SADは決して性格だけの問題ではなく、治療によって症状が改善することができる病気でもあるのです。ですから、今回紹介した症状をあなたが思い当たってとしても心配することはないのです。 (駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/) [朝鮮新報 2006.8.18] |