top_rogo.gif (16396 bytes)

〈朝鮮と日本の詩人-16-〉 北川冬彦

 北鮮側は
 黄色な稲田で飾られているが
 南鮮側は
 茫々(ぼうぼう)と立ち枯れた雑草原だ
 この非武装地帯には
 兎 狸 ノロなどが
 無数に巣喰っているそうだ
 宮城のお堀に
 鴨がのんびり浮いているのと同じである
 北と南
 鳥どもは
 自由に 飛び往き飛び来っているのに
 人間は ぴったり足止めをくらっている
 ここから
 日本は近いのに わたしは
 遠く
 中国も 南へ
 大迂回して帰らねばならなかった

 これは「板門店」と題する詩の全文である。この詩は、詩人の北川冬彦が1956年の9月に、中国訪問代表団の一員として、3か月にわたって中国を巡った折に朝鮮にも足をのばし、板門店を訪れた時につくられたものである。「北鮮」「南鮮」という表記には問題があるが、停戦協定締結後3年を経た当時の非武装地帯の様相をリアルに写し出している。

 詩人は、南北に分断された朝鮮人民の不幸な現実を「北と南/鳥どもは/自由に飛び来たっているのに/人間は ぴったり足止めをくらっている」という四行にこめて、心を痛めている。そして最終行の「大迂回」という暗喩をもって、それを強要しているアメリカ占領軍への批判をさりげなく表現すると同時に、平和を愛する心を「兎」「狸」「ノロ」「鴨」という生き物の詩語で象徴している。冬彦は1925年に第一詩集『三半規管喪失』をもって認められ、短詩形をダダイズムと結合させる詩風を独自のものとして確立した。一時「ナップ」にも接近したことがあり、敗戦後はネオ・リアリズムを提唱したことで知られる。(卞宰洙、文芸評論家)

[朝鮮新報 2006.8.18]