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「朝鮮名峰への旅」(21) 夏の入道雲から高積雲へ 魚のウロコ、亀の甲羅雲も

初秋の雲

 8月半ばを過ぎると白頭山の空は、徐々に澄みわたってくる。朝鮮半島の付け根にある白頭山は、この時期になると夏の象徴である太平洋高気圧の圏内から、乾いた秋の大陸高気圧の中に入ってしまう。梅雨の時はバケツをひっくり返したような天気が続き、最後には雷とともに夏山になったが、秋雨前線の場合はそれほど劇的な変化はない。

 高度約2700メートルの白頭山の朝夕は、急激に気温が下がり、カメラを握る手が凍えそうである。空が明るく透明になるにしたがい、山肌が白く輝いて見えてくる。山頂付近には草紅葉が始まっており、澄んだ空気のもと、赤く輝く白頭山の姿は神々しい。

 空を眺めると、青みを増した空がどこまでも広がり、吸い込まれそうだ。夏の入道雲に替わり、高積雲の仲間の雲が現れ、魚のウロコのようになったり、亀の甲羅状になったりと、どんどん形を変えていく。雲は高さ2000メートルから7000メートルのところに現れるためか、朝夕に雲が焼けると全天が真っ赤に色づき、見ている私自身までもが赤く染まっていくようだ。山には雲の陰影が映り、山の姿が刻々と変化してみえる。

初秋の雲

 天池では、放流したイワナの稚魚が数aの大きさに成長し、群れをなして泳ぐようになった。白頭山の研究グループがある日、30センチ余のイワナを数匹、差し入れてくれた。ゴムボートから天池に網を広げて獲ったそうだ。生の食料が手に入りにくいわれわれにとってはうれしい差し入れだ。さっそく塩焼きにして食べた。冷たい湖水に生息するイワナはさぞ身がしまっているかと期待したが、味はいま一つであった。

 山から下りた日、ドライバーが近くの川でイワナを釣り上げてくれた。一回り小ぶりで20センチほどだったが、身がしまっていて、まさにイワナの味がした。残念だったのは日本酒がなくて、イワナの骨酒にありつけなかったことだ。しかしこの夜は、山から解放されたこともあり、夜半までトゥルチュク酒(ブルーベリー酒)で宴が続いた。

 草紅葉の始まった山腹では、高山植物の数が少なくなる。ウスバキチョウやクジャクチョウなど高山のチョウは、朝の間は翅にたっぷりと露をつけているため飛びたつことができず、じっと花にぶら下がっている。翅もところどころ欠けてみすぼらしい。日が高くなるとようやく飛び交うが、夏の最盛期ほどの元気がない。

 山腹のカラマツ林に入ると、日本の山でも見かける、ジゴボウの仲間のカラマツタケが顔を出している。味噌汁にも、ラーメンやそばにもぴったりと合う使い勝手の良いキノコである。これから山の中は、秋の味覚にあふれる季節となる。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2006.9.1]