〈本の紹介〉 京城トロイカ |
波乱万丈の革命家群像 鮮やかに
1930年代初頭、日本植民地統治下のソウル。西大門刑務所で出会った3人の男たちは、満期出所とともに秘密地下組織の結成に着手した。 頻発するストライキと学生たちの同盟休校。男たちの脱獄と逃走を支え、ある時は闘争の矢面に立つ若き女性たちの群像。波瀾万丈の時代の遠い記憶が、生き残った者の証言によって、いま、鮮やかに甦った。 本書は「李載裕とその時代」の姉妹編であり、小説の技法を使った長編「ノンフィクション」である。 物語は、故郷を飛び出した少年李載裕が東京に留学し、社会主義者として検挙され、手錠にかけられたまま帰国するところから始まる。 日帝支配下の朝鮮では、民族支配と思想の統制がいよいよ厳しさを増しているときだった。比較的恵まれた家庭の娘たちが通う同徳女高の少女たちの、屈託ないおしゃべりや他愛のない笑いの中にも、時代の風は避けようもなく吹いてきた。 美人で詩を作ること以外には関心を示そうとしない李孝貞、人を憎むことを知らずおっとりとした人情肌の李順今、いつか小説家になることを夢見ている朴鎮洪。そんな彼女たちに届いた光州からの知らせは、乙女たちの胸を躍らせるものだった。日本人中学生による朝鮮人学生への集団暴行事件をきっかけに、抗議の同盟休校がソウルへ、全国へと波及してきたのだ。
他方、李載裕は西大門刑務所で生涯の同志となった2人の男たちと知り合う。会う人をたちまち安心させる天才的組織者金三龍、冷静に客観的にものごとを見て「滅多に笑わない」李鉱相。満期出所した個性豊かな3人の男たちが「初代」のトロイカを形成することになった。ロシアの言葉で三頭の馬が同等の力をもって馬車を引くところから、全ての活動家が同等の権利を持って自身と組織の運命を決定していく組織のあり方を指してそう呼んだ。以降、たとえトロイカ1人が敵の手に落ちても、新しい活動家が誕生し、新しいトロイカが甦ることになった。労働者の生活と権利を守り、社会主義を目指す地下組織は拡大していった。 これら男女の若者たちが闘いの中で出会い、連携し、鍛えられていく。弾圧の嵐は娘たちを育てもしたが敗北と挫折をもたらす時もあった。彼女たちはそれぞれが労働現場に入り、ソウル市内で一大連鎖ストライキを成功させる。これは日帝支配者の心胆を寒からしめた。変装の名人李載裕は奇跡的な脱獄のあと、日本人で京城帝大教授三宅鹿之助宅の床下に掘った穴の中で匿われる。李載裕のアジト・キーパーを買って出た朴鎮洪。同じくキーパーとなった李順今。活動をともにする中で、いつしかそれぞれの愛が芽生える。恋敵となった2人だったが朴鎮洪は獄舎で李載裕との間の子を産むのだった。 物語は息をもつかせぬ勢いで展開されていく。拷問と転向、裏切りとスパイの暗躍、その逆転。李載裕の死後、朴鎮洪は延安に逃れ、日帝の敗北後ソウルに戻った。だが、祖国の現実は革命家たちにしばしの安堵も許さなかった。分断と戦乱の時代が待っていたのだ。ある者は北へ。ある者は南のパルチザンに。トロイカの生き残りとかつての同徳女高の女性たちは、したたかに、しなやかに、果敢に、それぞれのやり方で時代の壁に立ち向かっていった−。 物語は、2004年6月、年老いた李孝貞が庭の百日紅の花を見ながら、かつての同志と遠い記憶をたどっているところで終わる。彼女たちの記憶をさらに現代という時代に刻みつけるのは、私たち読者の手に委ねられる。なお、現在、平壌市内の風光明媚な丘に建立された愛国烈士陵で金三龍、李鉱相は永久の眠りについている。(粉) [朝鮮新報 2006.9.16] |