〈本の紹介〉 異郷の人間味 |
「同じで違う」人間のユニークさ 本書には日本で活躍する28カ国、50人の在日外国人の姿が収められている。パフォーマンス、太極拳、英語落語、大学教授、舞踊家、DJ…あげればきりがない多士済々な面々である。 取材に当たったのも在日朝鮮人ルポライターの高賛侑氏である。同氏の実感がおもしろい。 「人間って、みな同じだな−」 「人間って、こんなに多様なのか」 いったいどっちなんだよ? と突っ込みを入れたくもなるが、要するに「同じで違う」人間のユニークさが、温かい筆致で描かれている。 路上でアンデス音楽を奏でるアントニオ・カマケさんの人生行路もなかなかだ。ペルーの標高1500メートルの小さな町で生まれ育った彼は、96年にペルーの音大で仲間と共に民族音楽のグループを結成。その路上ライブを見た日本人から東京に誘われた。97年に来日、翌年に大阪へ。そして、そこで妻になる日本女性と出会って、いまでは、そこを拠点に各地で音楽活動に多忙な日々を送る。 大阪産業大学教授のマンフレッドさん。ウィーンからほど近い標高2000メートルの山懐で生まれたオーストリア人だ。ウィーン大学哲学部に入学して、日本人と知り合って、大学3年の時来日。大阪大学で日本の植民地支配や強制連行、創氏改名などについて研究、現在は在日の人権問題に取り組み、ブータン難民らを支援する。 本書は、日本で暮らすことになった外国人が懸命に生きる姿やそこでの異文化体験を生きいきと照らし出していく。 大半の人々が語っていたのは「個人としての日本人には良い人がたくさんいるが、国家や社会としての日本には問題が多い」という実感だ。個人的には、先の2人の例を見たように、先入観もなく、外国人を受け入れ、親切この上ない人も多い。 しかし、社会的にはいまだ単一民族神話から抜け切れず、外国人を排除する傾向が強い。東大の姜尚中教授に「怪しい、生意気だ」と罵った石原都知事などがその典型だろう。明治以来の「脱亜入欧」の歪んだ外国人観は、社会の隅々に浸透しているのだ。 そんな差別や法の壁をたくましく乗り越えて、日本の人々との間に橋をかけ、相互理解をたゆまず進めている在日外国人たちの国際感覚の豊かさ。そこに学ぶべき点は多い。 それはベトナム難民として来日したグエンさんのこの言葉に代弁されている。 「日本に来たベトナム人はいろんな悩みを抱えていますが、在日コリアンが自分たちのコミュニティや学校を作っていることを知って、わたしたちも助け合いの組織を作ろうと思ったんです」 在日同胞社会の存在と民族学校を中心とするその絆、次の世代への愛情。在日同胞が築き上げたそのすべてが、ほかの外国人にとっても励みになっているというのは、著者の新鮮な驚きであったという。 長く日本にいる在日が権利擁護のために力強く闘って来た経験と足跡。それらを生かして、ほかの外国人らと共闘すれば、在日外国人全体の権利の向上に大きく寄与することはまちがいない。(高賛侑著、東方出版、TEL 06・6779・9571)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2006.9.22] |