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〈本の紹介〉 季刊「前夜」8号 特集「格差社会」の深層

差別の現実を具体的に抉る

 権力におもねる風潮が蔓延する日本社会にあって、「もの申す」気迫溢れる季刊「前夜」。

 今号の特集は「地域格差」の深層についてである。

 マスコミあげての「小泉改革」の後押しによって、いつの間にか、「改革」に反対するのは、魔女狩りにあうような雰囲気が存在するのが、今の日本社会である。

 それは先日、辞意を表明した竹中平蔵氏の次の発言に集約されていよう。

 「所得格差というのは必ず存在します。その一番低いところの絶対水準が下がっているかどうかが一番重要です。今の日本の場合、これは必ずしも下がっていない」(「日本人よ、「格差」を恐れるな」「文藝春秋」06年5月号)

 本書ではこの竹中平蔵氏の発言に、中西新太郎氏(現代日本社会論)が、完膚なきまでに反論を加えている。

 所得下限の絶対水準が下がっていないと明言することによって、所得がもっとも低い層の世帯が増加しているという事実を切り捨てていること。そしてそもそも、下限水準が歯止めとしての機能を持つことができるのは、竹中氏が嫌う社会的規制(生活保護制度等)によってであること。さらに厳しい受給制限制度によって生活保護制度から排除される、いわゆる漏給が広範に存在し、氏が存在しないという、「低い層が底抜けになって落ちて」行く状況自体が見えなくさせられていること。小泉政権が実現を計ろうとしている生活保護費の自治体移管が、生活保護受給の抑制を一層激しく進め、絶対水準の下限を押し下げるであろうこと…。

 これらの無視をさして虚構というのであり、竹中発言はその虚構を支えに社会的な批判をかわそうとしている、と同氏は主張する。

 「嫌韓流」のヒットや排外主義言説、ジェンダー・バッシング、自己責任論、優生思想など反人権、差別容認言説があふれかえり、人権侵害や抑圧の現実を告発することはおろか、表現することも困難になりつつある日本の状況。差別の現実を具体的に明らかにして、それらと闘う生きた知識と言葉を追求する上で貴重な内容といえる。(NPO法人、TEL 03・5351・9260)(礼)

[朝鮮新報 2006.9.22]