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若きアーティストたち(41)

ファッションデザイナー・鄭聖基さん

客のニーズに合わせてフットワークを軽くしたいと話す鄭さん

 「9頭身の人が着て『美しい』服ではなく、街中で歩いている普通の人が着られて『おもしろい』と思える服を作りたい」。そう話す鄭さんは、普段の生活のなかに根づく素材を取り入れながら、愛着が持てる服を作りたいという。

 デザインのインスピレーションは、日常生活の中に転がっている。それを具現化し、ちょっとしたスパイスを加えていく作業だ。

 大阪朝鮮高級学校を卒業した鄭さんは、昼はアルバイトをしながら服飾専門学校の夜間部へと通う。学費はすべて自分で稼いだ。バイトに疲れ授業中に睡魔に襲われることもたびたびだったが、「自分で稼いでいるお金で、この1時間の授業料を払っている」と自分に言い聞かせ、まぶたを閉じまいと必死に食らいついた。

 デザイナーのアシスタントやセレクトショップでバイトする過程で、学校で学ぶ「基本」が応用される工程に触れた。次第に「実践したい」という強い気持ちを抑えることができなくなっていった。

 在学中の2004年11月、鄭さんはブランド「NEW LIFE」を立ち上げる。前衛的で奇抜な服やアクセサリー、スタンダードではない、「NEW LIFE」でしか手に入らないものを作ることを目指しての挑戦だった。

服のデザインを考える鄭さん

 今年2月に開催された「大阪ライフスタイルコレクション2006」では、開催委員会が選ぶ「新人ライフスタイルクリエイター」の4人に選ばれ出展。大阪を拠点にこれからの活躍が期待されるクリエイターとして、その実力が認められた結果だった。

 翌3月にはセレクトショップ「Inoti」をオープン。新しい船出、しかしショップへの執着心はないと話す。いつでも手放す用意がある。そこには、パリへの強い憧れが見え隠れする。

 デザイナーとしての鄭さんにもっとも影響を与えた場所、それはパリだった。世界最高峰のコレクション、「パリ・コレクション」。それを前後しての約10日間、パリでは「ファッション・ウィーク」が開催される。街のいたるところでショーや展示会などが催され、芸術の都パリは祭りの様相を呈する。専門学校に通っていた頃、鄭さんは熱気に沸くパリの地を踏んだ。

 本場の雰囲気に魅了され「ここで仕事がしたい」と強く思ったという。ハイレベルな「戦い」が繰り広げられ、「弱い者」は次々と淘汰されていくパリだからこそ、「ここに出店したい」という夢に取りつかれた。2007年度の春夏コレクションでは、パリでプレゼンテーションを行う予定だ。

 そんな鄭さんにとって朝鮮学校で得た友達、先輩や後輩とのつながりは、今でも宝もののように輝いていると話す。「こんなに温かい人たちってほかにいないじゃないですか」。鄭さんの素直な感情だ。

 在日コミュニティー、そして大阪、パリを結ぶ人との出会いやつながりが、新しいアイデアや前進する力の源になっている。「服を通して人の心の中に入っていきたい」。そう話す鄭さんの服を、あらためて眺めてみた。奇抜なデザインのなかに息づく人間味が漂ってきた。(鄭茂憲記者)

※1983年大阪生まれ。大阪朝鮮高級学校卒業後、上田安子服飾専門学校夜間部入学。在学中の2004年11月にブランド「NEW LIFE」を立ち上げる。2005年8月に(有)「SEYES」設立。2005年11月専門学校中退。今年3月20日、大阪市西区にショップ「Inoti」オープン。現在は同市中央区に移転。

[朝鮮新報 2006.9.26]