〈本の紹介〉 アジア侵略思想のルーツ 近代日本の歴史認識を問う |
このブックレットは、昨年8月に開催された「戦後60年『憲法九条−アジアへの約束』」と題した集会での、鄭敬謨さんと高橋哲哉さんの講演記録に両氏が加筆して生まれたもの。 両氏の講演は、近代日本のスタートに焦点を当て、「明治は偉大な時代」という昨今のまちがった風潮に警鐘を鳴らし、参加者に大きな衝撃を与えるものだったと、ブックレットの「編集後記」には記されている。 日本の近代化において英雄のごとく、聖人のように祭り上げてきた「偉大なる人物たち」を一刀両断に面罵する両氏の物言いは痛快そのものだ。 鄭さんの言によれば、「征韓論」の始まりは吉田松陰であり、福沢諭吉は「脱亜入欧」を説き、中国、朝鮮は植民地にすればいいと説いた知識人であった。また、明治時代を象徴する岡倉天心は、「3世紀〜8世紀にかけて、朝鮮は日本の属国だった」と、とんでもない嘘八百を並べて、日本の朝鮮支配の虚構を作り上げた人物。 前の5000円札の顔、新渡戸稲造もまた、朝鮮統監府の嘱託として朝鮮に旅し、伊藤博文統監に何度も報告文を提出している。曰く「朝鮮人は20世紀の民にあらず、有史前期に属するものである」「この種族は死の種族にして、彼らの民族的な命脈は絶え果てんとしつつある」などと書いた。 いずれ劣らぬ「偉人たち」の実像を剥がし、朝鮮民族の被った被害の視点で彼らの足跡を見直した点に、このブックレット刊行の意義がある。 ブッシュ大統領がイラク、アフガン攻撃に当たって使った常套句「文明対野蛮」という口実は、実に明治の頃、日本が朝鮮侵略に踏み出すときに用いた言葉でもあったのだ。しかし、「国民作家」ともてはやされる司馬遼太郎はこの時代を「格調の高い精神に支えられた偉大な時代」だととらえ、それをテーマにしたベストセラー小説を次々に生み出している。鄭さんはこの点について「日本がアジアと平和的に共存しえる道というのは、このようなペテン師的な偶像を破壊して初めて開ける」と主張する。 高橋さんは、鄭さんが発行し続ける冊子「粒」を読んで以来「蒙を啓かれる思いをしてきた」と感想を語り、「とくに日朝首脳会談後、日本人拉致事件というものが全景化してきて、北朝鮮を悪魔化する日本のメディア、報道、言論というものの大洪水のなかで、私はこの『粒』に掲載された鄭敬謨先生のさまざまな論文を拝見して、自分の歴史観を揺るがせない、ぎりぎりのところで騙されるところから助けられたような思いがしていました」と述べている。 朝・日関係の改善を促し、東アジアの平和を形成する上で欠かせない一冊といえよう。(「九条の会・さいたま」、TEL 048・834・1298)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2006.10.3] |