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〈朝鮮と日本の詩人-20-〉 壷井繁治

 プロレタリア詩人・壷井繁治の作品に、「十五円五十銭」(全14連200行)と題する詩がある。

 関東大震災のパニック時に、日本兵が道行く人たち誰彼なしに「ジュウゴエンゴジッセン」といわせ、濁音のできない朝鮮人が「チュウコエンコチッセンと発音したならば/彼はその場からすぐ引きたてられた」という恐ろしい光景を、詩人が目撃して書いた作品である。その最終の、第14連はつぎのように結ばれている。

 君たちを殺したのは野次馬だというのか?/野次馬に竹槍を持たせ、鳶口を握らせ、日本刀をふるわせたのは誰であったか?/僕はそれを知っている/「ザブトン」という日本語を「サフトン」としか発言できなかったがために/ただそれだけのために/無惨に殺された朝鮮の仲間たちよ/君たち自身の口で/君たち自身が生身にうけた残虐を語れぬならば/君たちに代わって語る者に語らせよう/いまこそ/押しつけられた日本語の代わりに/奪いかえした親譲りの/純粋な朝鮮語で

 詩「十五円五十銭」は解説や説明を拒否するほどに真に迫っており、虐殺された朝鮮人の魂を怒りをもって甦らせ、そして日本帝国主義を告発している。解放後第1回の震災記念日に開催された朝鮮人犠牲者追悼集会のために書かれ「朝鮮の仲間たち」へのアピールに終るこの長詩は、当日、新劇の俳優が朗読して深い感銘を与えた。書かれたのは47年8月で、発表は新日本文学会の機関誌「新日本文学」の1948年4月号であり、「壷井繁治全集」(青磁社88年刊)の第1巻に収められている。

 繁治には、この詩のほかにも関東大震災について、「十五円五十銭−震災追想記」(1929年)、「震災の思い出」(1947年)、「でっかい盗まれ物−関東大震災記念によせて」(1961年)の3篇のエッセイがある。(卞宰洙、文芸評論家)

[朝鮮新報 2006.10.26]