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〈本の紹介〉 季刊「前夜」9号 「移動と記憶」特集

「強制的画一化」への反撃

 季刊「前夜」9号が刊行された。今号の特集は「移動と記憶」。意欲的な論考が目を引いた。

 ここでいう「移動」という概念は非常に時代性と歴史性を帯びたことばである。

 コロンブスの新大陸「発見」以来、数百万の、一説には2000万人のアフリカ人が新大陸に連行させられた。また、19世紀後半からは、「苦力」と蔑称される多数の中国人が全世界に流れていった。チャイニーズ・ディアスポラである。

 朝鮮人もまた、過去1世紀の間に植民地支配、第2次世界大戦、民族分断と内戦、軍事政権による政治的抑圧などを体験して、膨大な数の人々がルーツの地である朝鮮半島から世界各地に離散することになった。コリアン・ディアスポラの総数は、現在600万人といわれている。(作家、徐京植さん)。

 この排外主義や植民地主義がもたらした移動が人々や社会に何をもたらしたか、必ずしも明確ではない。共同体から戦争や暴力的な方法によって引き剥がされるこの移動は、言語的、文化的、世代間的な「断絶」を通じて経験されるため、移住先でも困難な立場に追いやられるからである。

 今回の特集では、こうした移動を生み出してきた排他的な特権や目に見えない暴力を明らかにしようとするもので、読み応え十分である。

 出色なのは、映画監督・ヤミナ・ベンギギのインタビューである。フランスのアルジェリア系移民の記憶が、映画という表現媒体を通じてどう掘り起こされ、社会に影響を与えたかが述べられている。

 そのほか、現在ドイツに滞在中の徐京植氏、菊池恵介氏による元白バラメンバーフランツ・ミュラー氏へのインタビュー「白バラ抵抗運動の記憶」が印象深い。

 ナチスに支配された戦争末期のドイツの状況について、フランツ氏は「私たちは嘘で囲まれた原生林にいたようなものです。真実を伝える新聞は一つとしてありませんでした。思想や言論の統制、つまり『強制的画一化』が行われていました」と語った。何やら、北のミサイル、核実験を、日本の軍事大国化に利用し、戦争へと世論を煽っている日本政府、メディア一体となった世論操作を想起させる指摘である。

 同氏は日本国民へのメッセージとして「もっとも大切なことは偏見を持たないことです。世界に積極的に関わり、イデオロギーに囚われていない情報を手に入れること。そうしないと世界観をもつことはできません。…閉じている状態では何も始まりません。リスクがあっても常にオープンであることが大切だと思います」。私たちの運動の在り方についても示唆を与えてくれるものだろう。(NPO法人「前夜」、TEL 03・5351・9260)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2006.10.28]