金貞�宸ﾍ、早くにして寡婦となり、人生の半ばを過ぎた頃、生きるすべを知り貞和女学校を設立、女性教育と開化のために全財産を投じた女性である。

１４歳の寡婦

　朝鮮でも封建思想が根強い開城の生まれで、１１歳の時、１４歳の金永鐘と結婚した。祖父、梁成鎮は縣監（地方の長官）、夫の祖父、金鼎實は府使（都護府の長官）を務めた富豪。父、梁在川も海州で貿易商を営み財産を貯えた人で、結婚初期までは何不自由なく生活した。

　しかし、間もなく夫が病死。１４歳にして寡婦となった。舅につづいて息子まで失ってしまった姑はとうとう床に伏せ、彼女は年老いた夫の祖母と多くの下男下女、小作人を抱えた大所帯を１人で切り盛りしなければならなくなった。そのうえ２２歳の年には夫の祖母、姑までが亡くなってしまう。

　悲しみに悶え苦しんだすえ、家財を整理し、親族に財産を分配した。そして自分のように若くして寡婦となった女性たちと共に行楽などで時を過ごし、クッ堂（神社）に足を運ぶことでむなしい心を紛らわそうとした。

人生の目標

　そんなある日、教会を訪れ、迷信打破を呼びかける女性宣教師の講演に大きな刺激を受ける。「外国から来た女性宣教師さえ教育、医療に専念しているというのに、私は今まで何をしていたのだろう」。

　ようやく自分を取り戻したすえに、心機一転して教育に人生を賭ける決心をする。３９歳の年であった。

　まず、外国人宣教師の運営する松桂学堂を引き受け、教育費を全部負担した。けれど保守的な開城の人たちは娘を学校に入れようとしない。そこで若い寡婦と不遇な女性を集め、聖書、英語を教えることから始めた。６カ月後、再び松桂学堂を宣教師に譲渡し、今度は自宅の一部を開放、親せきの娘７人を集め国語と漢文を教えた。そして生徒を募集するために一軒一軒訪問し、手紙を出して女性教育を促した。

　５カ月後、生徒数は１００人を超え、教師も姪の梁文姫など３人を新しく受け入れた。運営費はいっさい彼女が負担した。この噂は広まり、開城の郡守（郡の長）、朴宇鉉が特別視察、校舎を設ける約束で、学校を貞和女学校（１９０９年）と名付け、自筆の扁額も掲げた。こうして学生数は増えつづけ、自宅の全部を開放しても足りない始末。折りよく視察に来た学部大臣、李容稙が学校を訪問、弓場として使っていた君子亭を貸すよう郡守に命じる。すぐに君子亭を改造、そこに移転した。そして子連れで来る女性のために、今度は幼稚園を開いた。これが幼児教育の先駆けといわれている。

女性のために

　１９１０年、日本の植民地化に置かれ初等学校は普通学校となり年齢が制限される。こうした状況で１９１２年からは学齢期の過ぎた女性のために夜学を設け１７年間運営した。

　そして１９２７年には、養蚕、製糸、染色、織物、刺繍、裁縫など女性の経済的独立と民族経済の自主的発展を実現するための貞和技芸学園を設けた。総督府では学園を公立学校技芸科に吸収させようとしたが、彼女は「私の首を取られても貞和だけはやれない」と断固と許さなかった。

　これ以外にも教育を通して愛国啓蒙事業、奴婢の解放と平等な人権確保などを実践し、学校に校医を置くなど学生の健康にも関心を示した。

　金貞�宸ﾍ全財産を教育のために投じた。１９１７年、学校の財団法人を設立する時、彼女が喜捨したお金は１５万円、それにかかった経費、７１２０余円も自ら負担した。しかし、自分のためにお金を使うことは絶対許さなかった。卒業生たちの中で金貞�宸ﾌ還暦祝いを催し、銅像を建てる話が出た時、基金がなく講堂も建てられず、学校創立記念行事もままならないのに何事かと激しく怒ったという。

　教育に対するその熱意に、金元培のような富豪をはじめ多くの人たちが援助、後援会も組織された。彼女は加え、残った最後の私財も提供し５００余人を収容できる２階建ての講堂がついに建設された。

　女性教育の大きな星は、享年６５歳で静かに息を引き取った。葬儀は、４０にものぼる各界各層の団体が参加する社会葬として執り行われた。（呉香淑、朝鮮大学校文学歴史学部教授）

　金貞�宦i１８６８〜１９３２）。１４歳で寡婦となる。京畿道開城で私財を投じ、貞和女学校を設立。夜学と幼稚園の運営、技芸学園を付設するなど女性のための教育内容と文化を積極的に取り入れ女性開化の振興に寄与。

［朝鮮新報 2006.11.4］