〈本の紹介〉 「ホヨルチャ、朝鮮を襲う」(朝鮮語版) |
朝鮮医学史の貴重な断面 1821年、朝鮮で正体不明の疫病が大流行した。驚くほど早く伝染し、発病率が非常に高く、病気にかかれば酷い苦痛のなかで即死した。誰も、この病気は何なのかを知らず、どのような処方で防ぎ、治すのかも知ることができなかった。人々はこの病気を「怪疾」と呼んだ。それから約60年後の1886年、怪疾はその英語名から「虎列刺」と名づけられ、人々は「ホヨルチャ」と呼んだ。 本書の目的は、そのホヨルチャを一つの方便として、その間の身体と病気、医療と医学における「大変革」を感じとり、それ以前と以後に展開された朝鮮人の生と歴史の理解への道案内を行うことにある。本書の題名を巻頭に掲載された論稿「ホヨルチャ、朝鮮を襲う」からとったのも、このような理由による。 第1部「苦痛を受ける身体の歴史」には、伝統社会における医学の諸相を明らかにすると同時に、医学によって伝統社会を照らし出した論稿7篇を集めている。 疫病だけが身体に苦痛をもたらすのではない。古い封建的因習が人々を精神的に苦しませ、また衛生の名目で権力が人々に襲いかかる。第1部ではこのよう内容を、時には馴染み深い伝統芸能である「パンソリ」をも題材にして論じている。たとえば、「沈清伝」は盲人となった父を自己を犠牲にして救おうとする娘の物語であるが、そこから当代社会における盲人と障害者の問題を抽出するなど、著者の鋭い切り口と意欲的な論稿には実に興味深いものがある。 第2部「歴史のなかの医療生活」には、解説に近い論稿5篇を集めている。というのも、近年「許浚」や「大長今」などのテレビドラマによって伝統医学への関心が高まったが、誇張された側面もなくはない。そこで、医学史を専攻する著者は正確な知識を伝えようと考えたのだろう。本書のために書き下ろした「内医院、典医監、恵民署はどのようなところだったのか」「医女のはなし」などから、その意図を充分に窺い知ることができる。 開国以降、本格的に西洋医学が導入され伝統医学との「戦い」が始まった。それは、東洋文化と西洋文化との葛藤であり、社会における富裕層と貧困層の矛盾をさらけ出すものであった。さらに、そこに日本帝国主義者の植民地医療政策が介在する。 第3部「韓医学か、西洋医学か」には、西洋近代医学の神話を打ち破り、伝統医学の復権を果たすとともに、それ自体の問題点を追求した論稿5篇が収録されている。 以上、簡単に内容を紹介したが、一言でいって多彩で内容の濃い魅力溢れる著書である。さらに特記すべき点は原色の豊富な挿入図で、伝統絵画や古典医書、古い写真など貴重な図も多く、一見の価値がある。 ふだん朝鮮医学史に触れる機会がほとんどないわれわれにとって、実に貴重な書籍といえるだろう。(申東源著、歴史批評社)(任正爀 朝鮮大学校教授) ※注文はコリアブックセンターへ [朝鮮新報 2006.11.11] |