〈みんなの健康Q&A〉 心房細動(上)−要因と症状 |
Q:最近、動悸がするので病院で診てもらったところ、発作性心房細動だと言われました。 A:心臓は左右の心房、心室という筋組織で構成されていて、まわりが心膜、脂肪組織でおおわれています。心臓が収縮したり拡張したりするのは、刺激伝導系という電線の役目をする心筋内組織を電気が通ることで行われる仕組みになっています。心房細動は心臓の調律が不規則で速くなる、専門的にいえば頻脈性不整脈の代表的なもので、心電図検査によって診断されます。 Q:不整脈というのは脈が飛んだり、ばらばらになることですよね。 A:はい、そのような状態をさします。不整脈には規則正しい調律に余分な調律が混入する場合と、基本調律自体が乱れている場合とがあります。心房細動は後者です。 Q:いったいなぜ起こるのですか。 A:心臓の電気刺激は心房から心室に伝わりますが、この心房筋に異常が生じると発生します。どういうことかというと、心房で電気の過剰放電が起きたり、異常な電気回路ができるのです。具体的には、心房筋の老化、高血圧や甲状腺機能亢進症といった心臓そのものに対する負担があると、このような心房内伝導障害が起こりやすくなります。また、心臓弁膜症や心筋疾患などには、しばしば心房細動が合併します。 Q:心拍数は普通よりかなり多くなるのですか。 A:はい、通常は1分間に60から90回くらいですが、心房細動になると100回を超えることも少なくありません。心房は細かく、速く、かつ不規則に動き、毎分300から500回の頻度で興奮して一種のけいれん状態になっています。この電気興奮はそのまま心室に伝えられるのではなく、刺激伝導系の途中にある房室結節で調整されて心室に伝えられるので、心室はけいれん状態にはなりません。しかしながら心室には興奮が毎分60から200回の頻度で不規則に伝わるので、心室の興奮を反映する心拍も速く不規則になるのです。 Q:まったく症状のない人もいるとのことですが。 A:動悸や胸の痛み、不快感といった症状が多いのですが、まったく何も感じない人もいます。高齢者の慢性心房細動例では、心機能が悪くなければほとんどの人が無症状です。 Q:私のように普段は正常調律で、発作的に短時間のみ心房細動になる例もあるそうですね。 A:生じても7日以内に自然停止する場合は発作性心房細動とよばれ、たいていは24時間以内にもとに戻ります。自然停止しない場合は持続性ということになりますが、薬を使ったり電気的ショックによって停止できるものと、できないものすなわち永続性心房細動に分類されます。これらは慢性心房細動とよばれることもあります。 Q:どういった人が慢性心房細動になりやすいのですか。 A:心臓に基礎疾患がある場合に心房細動が固定化しやすいのですが、一般的な自然歴としては、はじめは発作性心房細動として発症し、徐々に発作頻度、持続時間が増加していき、最終的に慢性になると考えられています。心房細動は加齢とともに罹患率が増加する疾患です。欧米での統計データによれば40歳ごろより有病率は増加を示し、40歳以上の2.3%、65歳以上の5.9%にみられるとのことです。日本でも同様の傾向があり、とくに60歳を超えると有病率が急激に上昇するといわれています。 Q:先にも言ったように、一見して元気な人や、一時的に生じてすぐ治まる人もいるようですが、実際は何が問題となりますか。 A:一度心拍出量が減少するので、頻拍に伴う胸部症状以外にも低血圧によるめまいや冷や汗を認めることがあります。また、重度心弁膜症や心筋疾患を有している場合には血液の循環不全から容易に心不全に陥ります。この場合には、動悸、息切れだけでなく、重症化すれば呼吸困難やむくみを生じ、生命にかかわります。 もうひとつ重大な合併症があります。それは脳梗塞です。心房細動が起こると、心房収縮が十分に行なわれなくなり血流の速度が低下するため、血液によどみ血栓という血液の固まったものが形成されやすくなります。とくに48時間以上持続した心房細動では心房内に血栓ができやすく、それが心臓を出て血管内を流れ、頭や手足に運ばれてそこの血管がつまり、たとえば脳であれば脳梗塞を起こします。これを心原性脳塞栓症といいます。最近の統計では、全脳梗塞のうちこれによるものが20数%を占めるとされています。リウマチ性弁膜症や人工弁を用いた心臓弁置換術後にはとりわけ頻度が高いことがわかっています。 Q:心臓への影響なら理解できますが、脳梗塞になるとは予想もしていませんでした。 A:心原性の脳梗塞は大きな梗塞、高度の脳浮腫や出血性脳梗塞を生じやすく、ほかの型の脳梗塞より病状経過が不良です。言葉を失う失語症になる確率が高いのも特徴です。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2006.11.22] |