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パネル討論「アジアの渡り鳥保護のステップは?」

鄭−朝鮮住民との保護問題共有、金井−農家の人とともに保全を、アーチボールド−いろいろなチャンネルから協力、ランズ−あらゆるレベルで世論喚起

 アジアの渡り鳥保護国際シンポジウムでは「アジアの渡り鳥保護の次のステップは?」と題したパネル討論が行われた。市田則孝・バードライフ・アジア代表の司会のもと、朝鮮大学校教育学部の鄭鐘烈学部長、日本野鳥の会の金井裕氏、国際ツル財団創始者のジョージ・アーチボールド氏、バードライフ事務総長のマイク・ランズ氏の4人がパネリストとなりさまざまな角度から論議や提起がなされた。

朝鮮大学校で飼育されているクロツラヘラサギ

 司会 アジアの渡り鳥保護において今何が一番問題なのか?

 金井 実際に鳥が減っていること。じゃあどういうふうに減っているのか、なんでそうなっているのかを認識しなきゃいけない。

 そして(鳥が)渡っている場所で何が起きているのかを研究しなくてはいけない。

  やはり一番の問題は鳥の数の減少。クロツラヘラサギとツルの問題は一極集中していること。これをどう分散させるかが問題だ。ツルに関しては鹿児島・出水でだいぶ前から分散の問題が何度も論議されてきた。分散化の問題で一番感じることは、分散する場合に元にいた場所にしっかり帰していくこと。クロツラヘラサギも数が少なくて最初は280羽ぐらいと思っていたのが、今では台湾で700〜800羽になっている。こういう所で集中化が起きており分散化を早期に進めるべきだ。

鄭鐘烈さん(朝鮮大学校・教育学部長)

 アーチボールド 「食べ物」の問題と「再生」の問題だと思う。私たちにはどのように鳥を保護するのかを考える時間が十分にある。環境をいかに守るのか、次世代研究者養成の問題も考えていなかなければならない。

 ランズ 世論を喚起することだと思う。政府でもローカルでもあらゆるレベルで世論を喚起することが大切だ。鳥を保護することが持つ価値や重要性など、人間社会においてどれだけ重要なことなのかを考えていかなければならない。

 司会 人類、地球全体にも関わる問題を含んでいると思う。今後どうしたらいいのか。

 金井 保護区にして守ることができれば非常に楽だと思う。いろいろな国の生活の場は人間の生活の場でもあって、そこで生活をしている人がハッピーになる方法で鳥の保全の話をしないと全然進まない。そこの農家の人と一緒になって保護の話をしていくべきだと思う。「非常に大切な鳥がいるので保護してください。それでは保護しましょう。じゃあ、そのために誰かがお金を払ってくれるんですね」ってなるんですけど、日本の事情はそうそうお金がでてこない。それなら農家の人を支えるシステムが必要なんじゃないか。そのためにはどうしたら農産物が売れるのだとか、どういう農産物なら消費者に買ってもらえるのかなどを考えなければならない。このような社会的なことも大きいと思う。

マイク・ランズさん(バードライフ事務総長)

 司会 国際シンポで地域振興が大切だという提言もとてもおもしろいですね。鄭さんはどうでしょう?

  朝鮮の方では越冬していた場所にツルがほとんど降りてこなくなった。その理由はその地域の農業生産が減って、農民たちの生活が苦しくなったところにある。苦しくなった時にツルを保護しましょうと言ったところで、それよりも自分たちの生活が先だというのが本音だと思う。それで今私たちはツルの分散のためには研究者だけで保護するのではなく、その地域の人がツルを保護することによって自分たちの生活も潤うように現地の人たちと共に進めていきたい。今後いろいろな条件を作り、現地の人たちがツルを保護する気持ちになるように地域に密着した「保護区管理プロジェクト」を進めている。これからチャレンジしていくけども、今日はまだはっきりした答えはだせない。しかし保護の問題はさまざまな議論を重ねて答えが得られていくものだと思う。

市田則孝さん(司会、バードライフ・アジア代表)

 アーチボールド 英国の国営放送BBCの鳥の生態の5時間の放送を何度も見たが、それを通して鳥を保護する問題というのをアジアの一般の方たちに考えていただけると思う。

 ランズ 鳥がどんどん減っていることについてどうしたらいいのか、人々の協力や理解をアクションに導かなければならない。そのためには何をすべきか。3つの提案がある。1つはバードウォッチングなどで自然と親しむこと。2つ目は自然の持つ重要性、人間に対してどういう大切な役割をなしているのかをわかってもらう。3つ目はそういうのを国を越えてやろうと思うと、渡り鳥はすばらしい「キー」となる。

 司会 朝鮮での保護に関して何ができるか。

ジョージ・アーチボールドさん(国際鶴財団創設者)

  国際的な協力の下で朝鮮での保護活動を展開するにおいて一番大事なのは何か。そこまでの実績がないので、去年から始まった地域に密着した「保護区管理プロジェクト」をまずは解決して、安辺での越冬地移住を成功させていかなければならないと思う。今年8月に朝鮮にいったが、地域の人はぜひこのプロジェクトを進めてほしい、自分たちは100%協力すると言っていた。手ごたえを感じた。新しいモデルケースとして地域に密着した形の越冬地移住の問題をみんなと協力して解決していきたい。

 司会 どうすれば朝鮮の人々にこのようなメッセージがよりよく伝わるのでしょうか?

  去年初めて朝鮮で国際環境ワークショップが開かれた。私は本当にうれしかった。私が今まで朝鮮との窓口になりながら、とくに日本、南の人たちとの連携を図った。米国の人が朝鮮に行くのはなかなか難しい。でもジョージ・アーチボールド氏がぜひ朝鮮に行きたいというので朝鮮に連絡を取ったら外務省が動いてくれた。そこから環境教育メディアプロジェクトの朝鮮担当であるコシマ・ウェーバー・リウ氏と平壌にあるNGO団体のPIINTEC(ピョンヤン新技術経済情報センター)を紹介してもらい、今では朝鮮へのメッセージは、コシマさんを通じてPIINTECへという形のルートができあがった。

金井裕さん(日本野鳥の会)

 アーチボールド 北東アジア地域の保護に関しては、ここに集まった人たちがいろんなチャンネルを通して協力していくべきだ。シビアだがお金がないと議論したことは実現できない。いろいろな国からお金をだしてもらって、その中で具体的な協力活動をサポートしていこう。アジアの国はいい成果もあげている。なのにそれぞれの国の間のコミュニケーションが不足しており情報交換もそれほどされていない。せっかく一緒に働いているんだから、パートナーシップを取り合ってやっていくことが重要だ。

 司会 国々によって運動は違うし、原則、やり方も違うが協力しあわないとことは進まない。そういうことを考えると、朝鮮には朝鮮の考え方とやり方がある。そうなるとその国をよく知っている人がいないといけない。鄭先生には今の活動をもっと継続してほしいし、朝鮮大学校が今後も主導的な役割を果たしてほしい。(取材、構成=金明c記者)

[朝鮮新報 2006.12.1]