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〈人物で見る朝鮮科学史−22〉 新羅の科学文化(4)

エミレ鐘=世界で最も美しい音色

慶州博物館のエミレ鐘

 新羅の文化遺産のなかで、悲しい伝説とともに広く知られているのが「聖徳大王神鐘」、通称「エミレ鐘」である。

 エミレ鐘は、その鐘の音が「オンマー、オンマー」という子どもの泣き声のように聞こえるところから名づけられたが、それは鐘を鋳造する際に幼い子どもを人身御供としたという伝説による。エミレ鐘は、高さ3.66メートル、重さ18.9トンの青銅製で、完成まで実に30年以上の歳月を要している。それが伝説の素地となったと思われるが、まずは世界でもっとも美しいといわれる音色の秘密に迫ってみよう。

 エミレ鐘の音を分析すると約50の周波数の音波が共存していることがわかるが、打鐘後、高周波音は早く消えて低周波音はゆっくりと消える。9秒後にはほとんど低周波音のみとなり、最後には子どもの泣き声に近い168ヘルツの音だけが残る。さらに、この音も2つの音に分かれ、それが干渉し9秒に一度「うなり」を生じる。ゆえに、鐘の音が子どもの泣き声のように聞こえるのは、音響学的に裏付けられた事実である。

 次に、美しい音を出すことができる要因を見てみよう。鐘の上部に縦笛のような音管があり、雑音を除去するフィルターの役割を果たしている。また、鐘の真下には地面を半円形状に掘った「鳴洞」があり、それによって音がより響くようになっている。さらに、鐘の表面には、上帯、乳廓、乳頭、下帯と呼ばれる突起とともに、その美しさを絶賛される「飛天像」があり、その非対称的な配置によって音が2つに割れてうなりを生じさせている。また、鐘の打つ場所である撞座も科学的に計算された打撃中心(バットの芯のような場所)からわずか6%しかズレがなく、鐘全体から効果的に音が響く。

人々の怒りと悲しみが「エミレ鐘」の伝説を生んだ

 このようにさまざまな工夫が凝らされたエミレ鐘であるが、中国鐘や日本鐘の鋳造は「挽型法」あるいは「回転型法」によるが、エミレ鐘は「蝋型法」を用いている。それは、蜜蝋で型を採り砂で固めて、中の蝋を溶かしそこに青銅を流し入れる技法で、美しい文様はこれによって可能となる。一般に朝鮮鐘というのはこの技法によるものを指す。

 さて、冒頭の伝説に立ち戻ろう。以前にエミレ鐘の成分分析が行われたが、人骨の成分であるリンは検出されなかった。では、なぜ、そのような伝説が生まれたのか。エミレ鐘の鋳造は国家的規模の事業であり、人々の生活を圧迫したことは容易に想像される。そのなかで子どもが犠牲になったことがあったかもしれない。人々の怒りと悲しみ、それが子どもを人身御供とする伝説と形を変えた。「オンマー、オンマー」という鐘の音は、やはり犠牲者へのレクイエムなのだろう。現在、エミレ鐘は慶州博物館の中庭に安置されているが、残念ながらその鐘の音が鳴り響くのは年に数回、特別な日だけである。(任正爀、朝鮮大学校理工学部教授、科協中央研究部長)

[朝鮮新報 2006.12.16]