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「朝鮮名峰への旅」(23) 荘厳な朱色の太陽 体の底から湧き上がる感動

冬の天池

 冬の白頭山に入るのは、大変なことである。無頭峰までは生活する人々がおり、ここまでは、道路も除雪されている。オンドルで暖められた快適な枕峰ホテルを出て、除雪路を車で三池淵へと向かう。池にはすでに氷が張り、その上に雪が積もっている。中ノ島のヤナギの木が寒々としたなか凛と立ち、存在感のある姿を見せていた。夏にはにぎわう場所だが、いまは誰もいない。ただ木枯らしが吹きわたるだけである。

ブリザード

 無頭峰で車を下りた。ここからは歩きだ。この上は雪の世界、まだところどころ車道の出ている道を、白頭橋へと向かう。今日は、助っ人がいる。若い国境警備隊の人が警備の詰め所に入るため、その近くの宿舎までわれわれの荷物を持ち運んでくれるのだ。車道が無頭峰の裾を巻き終わると、森林限界を過ぎて、一面の雪原に変わる。

 樹林帯の中は空が晴れわたり、時々風花がひらひらと舞い落ちてくる穏やかな日和であった。しかし遮るもののない雪原に変わったとたん、たちまち白頭山の方から強風が吹き下してきた。細やかな砂を巻き上げて吹き下ろす風は、容赦なく体を打つ。急いでゴーグルをつけ、フードでしっかりと体を防備する。

 白頭山に近づくにつれ、風はますます激しくなる。正面から吹きつける強風は、まともに向き合うと呼吸するのも苦しいほどだ。思い切り体を前方に傾けないと、一歩も前に進むことができない。少しでも気を抜くと、バランスを崩し倒れこむ。重いザックを背負って、この強風のなか立ち上がるのもやっとである。水平方向360度吹きつける風で、なにも見えない。しかし上を見上げると、青々とした空が広がっている。大陸ならではのブリザードである。ほうほうのていで、白頭橋の宿舎にたどり着く。

三池淵

 小屋の中は雪が吹き込み、生活できるようにするまで、また大変な労働を強いられた。雪を取り除くそばから、新しい雪が吹き込む。針で刺したような小さな穴まで塞ぐと、やっと吹き込みがなくなった。オンドルに火を入れる。警備隊員が用意してくれた白樺の薪を燃やすと、部屋の中はようやく快適な空間に変わった。半袖にシャツ一枚でも足の先から温まってくる。

 12月の白頭山は寒さや風は強いが、晴れることが多く、一週間に二度も撮影が可能であった。一度はカルデラ壁を天池湖畔へと下り、雪に覆われた天池を撮ることができた。湖畔で、コチコチに固まった小さなフクロウを見つけた。強風と寒さで渡りきれずに力尽きてしまったのだろうか。白頭山の冬がいかに厳しいか思い知らされた。

 誰もいない白頭山で、日の出を見た。雪煙の舞うなか、光彩を放ちながらゆらゆら昇る朱色の太陽は荘厳で、ひときわ輝いていた。体の底から沸きあがる感動につつまれ、至福の時を過ごす。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2006.12.21]