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〈大阪朝高の選手権ベスト8〉 サッカー解説者・セルジオ越後さんに聞く 全国の後輩に大きな夢与えた

ボール際の厳しさ、強いフィジカル、体張って下がらない守備

 第84回全国高校サッカー選手権大会でベスト8入りした大阪朝鮮高級学校。今回の快進撃について、サッカー解説者のセルジオ越後さんに話を聞いた。

●チームの印象は。

 1回戦から勝ち抜いてきた勢いに乗っている感じがした。今まで経験したことのない連戦で、勝ち抜いていくことの厳しさを知っただろう。野洲戦は、勢いとともに後半にちょっとペースが落ちたような気がした。でもトータルで見ると、一試合一試合に賭けている気迫を感じた。3つ勝ったのは大きい。大会のポイント、大きな話題になった。高校サッカーの歴史においても新鮮なことだった。また、大阪だけのチームじゃないんだと、全国の同胞が応援しているということがスタンドからもよく伝わってきた。

●今回、全国トップレベルにあることを証明した。

 そうだ。ボール際の激しさなんか象徴的だった。足技だけの強化が進みすぎ、日本が忘れつつあるものだ。準々決勝戦では、野洲の個人技に対して強いフィジカルで対抗した。野洲の得点は美しかったが、大阪朝鮮のそれも負けないものがあった。両チームの得点の仕方は似ていた。トータルに見ると野洲は何もできず、とまどっていたと思う。今後の課題は経験、舞台慣れが必要だ。大きな大会で、多くの観客が見ているところでどれだけ実力を発揮できるか。これは朝高だけじゃなくてほかの高校にも言えること。練習試合をこなして、経験をたくさん積めば強くなる。今の水準まで達したら技術だけじゃなくて、「勝つ」という精神力も必要だ。

●国見を破ってベスト8入りした。

セルジオ越後さん

 国見は選手権の常連校。倒すという目標になっただろうし、実際に倒したことで大会の大きな話題になった。でも、初戦を突破したことが一番大きかっただろう。

 近年、大阪代表は勝てなかったから地元に胸を張って帰れる。これからは、ライバルたちが練習試合を申し込んでくるだろうし「打倒・大阪朝鮮」で来るだろう。

 全国に朝鮮学校はたくさんあるが、後輩たちに大きな夢を与えた。選手権大会は、がんばれば届く目標だということを見せた。Jリーグに所属している先輩たちを目標にするよりも、もっと近い目標、夢ができてとてもよかったと思う。

●印象に残った選手は?

 24番の趙栄志(今大会FW優秀選手)。運動量、テクニック、サッカーセンスがすごくよかった。スタミナ、ボールさばき、ポストプレーなど、体は大きくないが、一人で張ってできる。主将の安泰成(今大会DF優秀選手)もガッツがあってよかった。右サイドの5番DF金裕士も、安定したプレーと上がりが印象に残った。守備面では伝統的な気迫、体を張ってとにかく下がらないでボールに向かっていく姿が目に焼きついた。

●高校サッカー界、日本社会に与えた影響も大きいと思うが。

1回戦の西目高校戦で貴重な決勝点を決めた大阪朝高の趙栄志選手(昨年12月31日)

 今は、日本の高校で外国人留学生がプレーするのが珍しくなくなった。世界と戦うという意識もそこで芽生えてきた。その意味では朝鮮高校の高体連参加の門戸がもっと早く開かれていたらと痛切に思う。

 高校生の年齢で一つの「勝負」をするという意味において、国際交流はいい刺激になる。朝鮮の子は日本の子に負けたくないと思うし、逆に日本の子もそうだろうし。どこの国でも同じ。いろんな意味において「ライバル意識」はとても大切で、それがないと互いに伸びない。

 日本サッカーがまだアマチュア時代に、日本リーグのチームや日本代表が在日朝鮮蹴球団と試合をして、強化をしていたのは周知の事実だ。当時、日本人チームが胸を借りられる強いチームと言えば蹴球団だった。だから合宿時には引っ張りだこだった。そして、やっぱり勝てないから、「勝ちたい」とがんばった。そこから日本サッカーが始まった。

 時代の流れと共に、今は朝鮮高校が「日本の高校に向かっている」という感じだが、大阪朝高の活躍を機にそういった印象も少しずつ変わっていくだろう。

●一番足りないのは何か。

勝ち進むごとにサポーターの数がふくれあがった大阪朝高応援団

 経験。これからしっかり補っていけばいい。全国大会となると監督の采配、相手の分析などが大切であり、勝ち抜いていくのは非常に難しい。1回戦を勝つという目標をクリアすると、次からは目標にないことをこなさなくてはいけない。欲が出るし、周りの期待もすごくなるし、肩を叩かれる回数も増えてくる。今までとはまったく別世界。心地よい部分が出てくるが、それをどうコントロールするかだ。

 私は、いい面でも悪い面でも「在日朝鮮人社会の縦社会の厳しさ」をものすごく知っている。勝つとたくさんの人が寄って来て、たとえば選手起用法だとか、あれこれと口出しするかもしれない。応援でもいろんな同胞が出てきて、とても大変だったんじゃないか(笑)。

 それぐらい同胞社会全体に大きな影響を与えたことはまちがいない。余韻はまだしばらく続く。選手たちも子どもだから、これで天狗になったりしないようにしなくてはいけない。急に注目されると目の前がまぶしくなる。今までなかった環境にどう対処していくのかも大切なことだ。

●選手、同胞たちに送るエールがあれば。

 あきらめないでがんばればどんな環境、どんな壁があっても乗り越えていけるということを大阪朝高選手たちが証明した。日朝間はゴタゴタしているけど、フィールドではスポーツマンシップにのっとって爽やかに戦い抜いた。選手たちが残したベスト8。これはサッカーを超えて、在日と日本社会に大きな影響を与えたことはまちがいない。

 やっぱり一番いい「親善大使」はスポーツ。これを継続させることが大切だ。目前にあった「国立」へ行けなかったのは悔しいと思う。これからは、全国の朝鮮の高校生だけではなく、「僕が行くんだ」と小学生らが目指す火元になってくれればいい。これからも何度も全国大会に出て、あっと驚かせる活躍を期待している。(金明c記者)

[朝鮮新報 2006.1.12]