〈独W杯観戦記−下−〉 人種差別にノーを |
FIFAとドイツ国民 サッカー・ワールドカップ(W杯)ドイツ大会は9日(日本時間10日)、イタリアの優勝で幕を閉じた。決勝戦はヒトラーのナチス・ドイツが1936年にオリンピックを開催したスタジアムで行われた。 今回、日韓共同応援ツアーに参加した東京・品川の権東品さんは、98年の仏大会から一緒に応援している仲間だ。権さんは「サッカーを通じて人と人が交流することが大切だ。領土問題などで日韓関係は冷えているが、日本に生まれて住むコリアンとして、日本代表と韓国代表を応援することで、両国のパイプ役を務めることができると信じている。できるだけ早く朝鮮半島が統一して、W杯に出場するようになってほしい。これからもKJクラブを続けていきたい」と話した。
今回初めて参加した大学院生の寒川晃さんは「韓国代表選手のガッツはすごい。またサポーターの人たちも応援に迫力がある。今回、KJクラブに加わって、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)についても興味を持った」と話した。 確かに、スポーツは政治的な対立を超えて、友好関係を築く機会になる。しかし、スポーツの場を政治的に利用する反動勢力もある。また、差別や偏見をむき出しにするファンもいる。 小田実氏は6月29日同志社大学の講演で、サッカーW杯で「日本は勝つ」とわめいたテレビ文化人についてこう語った。 「マスコミでは、日本は勝つみたいな話ばかりしていた。ブラジルに勝てるはずがない。一億人が燃えあがったときに、反対意見が言えない。勝つと繰り返し、神頼みをするのは戦時中の日本と全く同じだった」 日本を応援し、勝利をみんなで祈願するが、日本以外の代表を応援してもいいではないか。 ナチズム根絶へ 今大会で、国際サッカー連盟(FIFA)は「人種差別にNOを突きつける」と銘打ったキャンペーンを実施した。 W杯ドイツ大会の開催都市の一つ、北西部のゲルゼンキルヘンで6月10日、極右政党のドイツ国家民主党(NPD)が大規模なデモを行った。ネオナチのデモは、「失業対策の批判」が表向きの理由だが、これまでに黒人のドイツ人選手が代表入りすることを批判するなど人種差別をあおるキャンペーンを展開していた。大統領が公然とホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定しているイランのチームを支援するなど、W杯を政治に利用する姿勢を見せていた。 また、共同通信によると、フランスのドメネク監督が6月28日、W杯の決勝トーナメント1回戦のスペイン戦で、「競技場にバスが着くと、猿の鳴き声でチームの黒人選手がののしられた」という重大な事実をAP通信に明らかにした。 FIFAは選手に対する人種差別の根絶を目指し、大会中から「人種差別にNOを突きつける」と題したキャンペーンを推進していた。 試合前の式典で、センターサークルに敷かれたシートに、「人種差別にノーと言おう 今は友だちをつくる時」(Say No to Racism A time to make friends)という英文が、国際サッカー連盟(FIFA)W杯ドイツ大会のシンボルマークを囲む形で書かれていた。 FIFAは準々決勝の2日間を「反人種差別の日」と指定した。試合の開始前に、両チームのキャプテンが、「人種差別は卑劣だ」「人種差別という悪との戦いを続けよう」などと声明文を読み上げた。開始前の写真撮影の際は両チームが「SAY NO TO RACISM」(人種差別にノーと言おう)と書かれた横断幕に沿って整列した。 ユダヤ人大虐殺を行ったナチズムの根絶を国是とするドイツと、ドイツも加盟する欧州連合(EU)圏内で開かれたW杯だからこそ実現した反差別キャンペーンだと思う。 日韓で開催した前回のW杯でも、ファシズムや排外主義に反対するキャンペーンを展開すべきだった。 私が見た2つの試合が行われた競技場には、ユニセフ(国連児童基金)のブルーの旗が掲げられていた。試合開始前の大型スクリーンに、ユニセフの世界各地での活動を示すビデオが放映された。 日本の主要メディアは、ドイツ大会でのこうした社会的啓蒙活動について真面目に報道しなかった。共同通信、読売新聞などが簡単に報道しただけで、朝日新聞はほとんど報じていない。 お金の問題深刻 FIFAは6日、今回は入場券が完売し、テレビの視聴者も最高を記録したと総括した。しかし、W杯とお金の問題は依然として深刻だ。 電通の子会社などが豪華な食事つきの入場券をFIFAから34万7000枚も確保して、「ホスピタリティーパケット」として販売したことも問題になった。ドイツ大会のチケット全体の一割に当たり、料金は最低900ユーロ(約13万円)。決勝戦では同伴者とともに観戦するプランで2万600ユーロ(約300万円)にも上った。ブラッター会長は便宜を与えた理由として、「電通は過去数年来、非常に緊密な関係のもとでFIFAと歩んできた」とコメントした。 今回の大会では、警備上の理由で購入者のデータをチケットに入力している。ところが同チケットは企業が政治家や取引先の接待用に購入したケースが大半とみられ、客の個人データの書き込みに企業は非協力的だった。また、約7万枚のチケットは売れ残り、当日売りに回ったようだ。 このチケットが一般に出回ったため、入場の際に行われるはずだった本人確認がほとんど実施されなかった。私が入場した2つの競技場でも、入場券を機械に通すだけで、何のチェックもなかった。 またテレビとスポンサーの大会支配も異常だ。ジーコ前監督はドローに終わったクロアチア戦終了後、「午後3時開始という、すごく暑い中で2試合を行った。サッカーはビジネスになった」と語った。ブラジル戦後の会見では、午後3時開始の試合が2試合あったと指摘し、「テレビに負けた」とまで言った。 FIFAは米日型の新・自由主義、市場原理主義にも「ノー」を突きつけてほしい。(浅野健一、同志社大学社会学部教授) (編集部注、「韓国」の表記は筆者の原稿を尊重しました) [朝鮮新報 2006.7.13] |