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母への想い

 「食器を洗うとき、最初に湯呑みやコップを洗いなさい」

 昔、母によく言われたものだ。

 母から言われた注意や助言、心得は知らぬ間に身について癖となっている。

 あの時こう言ってたっけ、ああしてたっけと懐かしく振り返り、用もないのに、遠くに離れて暮らす母に電話する。

 そして「どうした?」と答えるその声に心が癒される。

 去年の夏、母方の祖母が亡くなった。母は泣き疲れて、かわいそうなほどやつれて小さく見えた。

 それからの母は、親孝行のひとつもできぬまま逝かせてしまったと悔やみながら、祖母との思い出をたどって泣いている。

 親孝行はどんなにしても、しすぎたということはない。母が子どもに注いだ愛情に比べれば、足元にも及ばない。母の存在は永遠で偉大だ。

 どの国の映画やテレビでも恐ろしい目に遭ったときや、死を前にして母の名を叫ぶ。叱られても突き放されてもずっとそばにいたいと思うのが母であろう。

 初級部2年生の長男と幼稚園の次男は、毎朝必ず「オンマ大好き!」と抱きついてから家を出る。

 とくに次男は叱られると「オンマにだけは怒られたくないねん!」と泣きわめく。まさに、オンマ冥利に尽きる。

 正月に2歳を迎えた娘が、隣ですやすや眠っている。娘のかわいい寝顔を愛おしく眺める私のように、母も幼かった私をこうして眺め、大切にしてくれたのだろうと思うだけで幸せな気持ちになる。そして今宵も遠くの母に思いを馳せる…。(李福順、大阪府在住 主婦)

[朝鮮新報 2006.1.29]