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「人生の摩訶不思議」

 人生には思いがけないことが起きる。

 今、俳優で読書家としても知られる児玉清氏の「負けるのは美しく」(集英社)というエッセイを読んでいる。その中で児玉氏が高校生の時に印象深かった本として、ツヴァイクの「人類の星の時間」(みすず書房)という本を紹介している。

 このドキュメント本は、歴史上の著名人の運命を変えた一瞬に焦点をあてて何人かを紹介しているのだが、それによるとロシアの文豪・ドフトエスキーは刑場であやうく銃殺刑に処せられる寸前、まさに隊長の「撃て!」という発声をまつばかりの時に、刑を減ずるという皇帝の命をもった使者が早馬で到着して、間一髪ながらえたという。まさに「走れメロス」の世界である。もしそのとき、使者が途中でトイレに寄っていたら、転んでいたら、私たちは「罪と罰」に永遠に出会うことはなかった、と児玉氏はいうのだが、初めて知って私も驚いた。

 人生には確かに、このように「神のいたずら」としか思えないような、神秘的な運命の転機がある。

 この春、夫が大阪で、突然飲食店を始めると言い出した。しかし、私は本来怠け者で、わがまま自由に生きたい人間なのである。学者の妻にでもなって、のんびりと暮らしたいと選んだ結婚である。一体、どうしてこうなるのか。あのときもし他の人を選んでいたら…。

 思いがけない大阪で「いらっしゃいませ〜」などと叫びながら、想像外の方向に育った子どもたちや、生き生きとした夫の顔を眺めながら、「神のいたずら」をしみじみと考えている。(朴才瑛、女性問題カウンセラー)

[朝鮮新報 2006.3.27]