top_rogo.gif (16396 bytes)

〈投稿〉 「蒼い海峡」を読んで

「読み出したら止まらない」

 もうこの年になると長い時間読書することができない。眼が痛くなり、涙が流れ出、老眼鏡がくもってくる。われながら「もう年だなあ」と思うこの頃である。

 朝鮮新報の図書案内で「蒼い海峡」を知った。ぜひ読んでみたいと思っていたところ手にすることができ、さっそく読ませてもらった。読みだしたら止まらない。眼が痛くなっても本をおくことができない。一瀉千里とは言わないまでも、一気に読んでしまった。最近こんなに胸が弾み熱中して読んだ本はない。もともと本は好きで、いつも手元におき読んではいたが、こんなに胸が熱くなり、先へ先へと背を押される思いで読み終えた本は少ない。

 「蒼い海峡」は作者自身の半自伝的小説である。作者の生まれ育った家庭、アボジ、オモニの筆舌に尽くしがたい苦労と、自身の人生、成長−貧困と民族的差別、さげすみ、抑圧に悶え苦しみ、たたかい、あがきながら這い上がり朝鮮人としての自覚と誇りを持ち在日朝鮮人子弟教育に全身全霊を打ち込み、その道で生涯労苦を共にする最愛の良き伴侶との運命的な出会い−が肩を張らずに淡々とした筆致で叙情的に書きすすめられている。

 主人公、そして妻・金貴美の父母たちの言葉に言いつくせない苦労はまさに在日1世の人生であり生活であり血と汗の歴史だ。そして主人公の朝鮮人としての目覚め、民族の自覚と誇り、誰にも負けない強い信念とがんばり根性は父母たち1世から受け継いだものである。

 1世の同胞が日一日と数少なくなり、2世の多くもすでに同胞社会の第一線から退いた今日、3、4世の若い同胞青年たちが代を継ぎ在日同胞社会を守り発展させてくれることを確信しながらこの本を読み終えた。(2300円+税、新風社、TEL 03・3568・3333)(大阪府 崔鶴龍)

[朝鮮新報 2007.6.23]