〈同胞法律・生活センターPART4 A〉 生活保護 @−広がる「貧困」 |
申請保護 補足程度が原則、外国人への準用 「通知」のみで 新聞やニュースなどでは「景気は回復している」とか、都市部の地価の高騰により「ミニバブルの再来」とも言われています。しかし、実際の日常生活においてはその実感は薄いように思われます。それどころか、「格差社会」「ワーキングプア」などの言葉がすっかり定着し、「貧困」という新たな問題が浮上しています。 かつて日本社会は、高度経済成長と年功序列賃金、終身雇用制度に支えられ、多くの人々が自分の生活を「中の上」と認識する「一億総中流」社会として生活水準の均質な層が広いことが特徴でした。ところが、80年代後半のバブル経済崩壊による不況と雇用不安は、所得格差や貧困という新たな問題をもたらし、2006年の厚労省による「国民生活意識調査」では、「生活が苦しい」と感じている世帯が9年連続で過半数を占め、過去最多の56.3%にのぼり、とくに児童のいる世帯では61.8%にもなります。
私たち在日同胞も、このような状況と決して無関係ではありません。大阪市生野区では2005年の同胞生活保護受給者数は2000年の約2倍になっています(表)。 同胞の場合、長年の法制度上の差別や根深い民族的偏見などにより経済的、社会的基盤が脆いこともあり、失業、リストラ、病気、高齢などさまざまな原因から「貧困」「生活苦」に陥りやすいと言えます。同胞法律・生活センターにも生活保護に関する質問が寄せられています。 生活保護制度は戦後のGHQ占領期に導入され、日本国憲法第25条が規定する生存権の理念のもと、1950年に生活保護法が制定されています。既に述べたとおり、保護を受給している同胞はいますが、実は、この生活保護法には国籍要件があり、外国人には権利として保護が認められているわけではありません。児童福祉法や老人福祉法などの福祉に関する諸法(福祉八法)のうち、生活保護法のみが国籍要件を撤廃していません。 同胞が保護を受給できるのは、1954年に出された厚生省社会局長通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」により、「外国人は法の適用対象とはならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱いに準じて保護を行う」とされているからです。 この通知が出された1954年当時、日本に在留していた外国人は実質的には在日同胞でしたが、現在のところ、在留資格が「特別永住者」「永住者」「日本人の配偶者等」「定住者」となっている外国人が受給できるようになっています。しかし、私たち在日同胞をはじめ外国人に対する「準用」は法律によって定められているのではなく、あくまでも「通知」によるため、生活保護法は日本国籍者だけを対象にしていると解釈されています。 生活保護法では、国家責任、無差別平等、最低生活の保障、保護の補足性という4つの原理のもと、申請保護、基準及び程度、必要即応、そして世帯単位という4つの保護を実施する際の原則が明記されています。 上記のとおり、申請保護が原則なので、生活に困窮した人からの申請によって保護が実施されることになります。申請ができるのは本人のほか、本人の生活を熟知している扶養義務者または同居している親族ですが、保護を必要とする人が急迫した状況にあるときは、申請がなくても職権による保護が行われます。申請は外国人登録を行っている地域を管轄する福祉事務所です。 生活保護には、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助、介護扶助の8つの扶助があり、保護を申請する人の生活に不足している分を補足する程度で行われます。 日本政府の社会保障費削減政策により、老齢加算と母子加算が廃止され、受給者の負担も大きく、また、申請窓口となる福祉事務所では、受給者を減らすための水際作戦として申請書を簡単には受理しないなど、不適切な対応も指摘されています。申請に際しては、同胞法律・生活センターにご相談ください。(金静寅、同胞法律・生活センター事務局長) [朝鮮新報 2007.9.22] |