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〈同胞法律・生活センターPART4 B〉 生活保護 A−位置と現状

「最低生活、保障する制度」 8種類の扶助で構成

 「夫が突然、難病になり回復の見込みがないと診断された。住宅ローンの返済もできず、生活の目途も立たない。どうすればいいのか?」

 「生活保護を受け一人暮らしをしている父(78)が心配で、自宅の近く(他県)に引越しさせて、なにかあればかけつけられるようにしたい。引き続き生活保護を受給できるか」

 原則として、いずれも生活保護の申請および受給は可能である。ただ、福祉事務所により対応が違ってくることは想定される。同胞においても、「準用」での実施ではあるものの、実質的に同じ保護内容で受給することができる。

 以上は、在日コリアンの福祉を考える実務学習会「連続講座 使いこなせ! How to社会福祉・サービス」、第1回「生活保護How to−生活保護制度とその利用」(9月22日、NPO法人同胞生活・法律センター)での一幕。東京ソーシャルワーク代表の野々村泰道さんが講師を務めた。野々村さんは中野区で生活保護担当ケースワーカー、相談係、面接員を歴任してなお、福祉現場での活動を志しとする、「最前線」を知る人物だ。

 講師はまず社会保障制度体系における生活保護の位置と現状について述べた。

 そもそも生活保護とは、「生活に困窮する人に、所得の再配分により最低生活を保障する制度」で、「最後の砦・拠り所」に置き換えることができる、安全網(セーフティーネット)のひとつだと言う。

 しかし、講師は「生存権」の理念を具体化したものであるが、その理念と運用実態には大きなギャップがあると指摘し、制度としては幅広く受け止められるようになっているが、申請権の侵害、制度疲労、硬直化などを挙げ、依然として改善が遅れていることを認めた。

 生活保護の対象者は、資産、能力すべてを活用しても、生活に困窮する人(不動産などの資産、ほかの社会保障施策の利用、扶養義務者からの扶養援助、働く能力の活用などが保護適用の前提)であり、「無差別平等の原理」に則り困窮に至った理由は問われない。

 保護の内容は、生活、教育、住宅、医療、介護、出産、生業、葬祭に対する8種類の扶助で構成され、各扶助により、健康で文化的な生活水準を維持することができる最低限度の生活が保障される仕組みである(扶助の基準は厚生労働省が設定)。

 一例として、標準3人世帯(33歳男性、29歳女性、4歳子)の場合、13万8680〜18万0170円が世帯当たりの最低生活費(月額)とされる(平成17年度予算における事例)。これに対しての不足分が支給されることになる(保護の要否判定)。なお、多くの場合で、「世帯単位の原則」が適用される。

 講師は、実施機関(担当窓口)への申請から保護受給に至る流れの中で、申請者の申請意思が確認された時点で、関係資料(預貯金や社会保障、就労収入など)がなかったとしても、担当者はこれを拒否してはならないにもかかわらず、「残念ながら窓口では拒否、提出を求めるケースが多い」と実情について語った。つまり、原則不必要な対応が「相談窓口」で行われていることが現実として伺える。

 続いて質疑応答が行われた。

 ある参加者からは、朝鮮学校は私学だから「贅沢」だと保護の打ち切りを宣告された知人の話を持ち出して講師に相談を求めた。

 講師は「『贅沢』の意味を履き違えており、まったく整合性のない話」だと指摘しながらも、現状では「学校教育法第1条に規定する小学校、中学校以外の各種の学校において受ける教育については教育扶助の適用を認めることができない」(厚生省社会局長通知「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置」、1954年)とされていることから、事実上、朝鮮学校の生徒に対しての教育扶助は支給されないと述べたうえで、朝高からは生業扶助が適用されることになると解説。この際、日本学校への編入を進められる可能性も示唆した。

 このほか、皮肉にも申請の折、時計やクーラー、冷蔵庫などの売却を求められることが多々あるが、処分価値の低い趣味、装飾品、家電製品などの所有は認めれることを実例として挙げた。また、第三者を伴って申請を行うことは非常に有用であることを強調した。

 「おかしいと感じたら根拠の確認を」と講師は言う。そして「入りやすく出やすい制度」への移行を改善点として訴えた。

 センターでは、「専門家による知恵と協力で『困難』を切り抜けられることもある。疑問点を含め、ぜひ相談を」と呼びかけている。

 同講座第2回は「高齢者福祉How to」(20日、同センター)。(鄭尚丘記者)

[朝鮮新報 2007.10.1]