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〈同胞法律・生活センターPART4 D〉 高齢者福祉 A−独自サービスの必要性

横たわる「参加しにくい状況」

 在日コリアンの福祉を考える学習会「連続講座 使いこなせ! How to社会福祉・サービス」の第2回「高齢者福祉How to−介護保険、施設入所、老人医療、福祉給付金etc…」が20日、NPO法人同胞生活・法律センターで行われた。太成学院大学で人間学部講師を務める文鐘聲さんが高齢者の実態調査を踏まえ、同胞高齢者がもとめる福祉サービスのあり方、支援者の役割について講演した。

 2006年現在、同胞社会における65歳以上の同胞高齢者の占める割合を計算すると15.8%となっていることから日本同様、同胞社会もまた「高齢社会」を迎えている。しかし、社会保障費削減のため、医療費の自己負担増、高齢者の療養型病床の削減など、とりわけ高齢者への福祉は切り捨てられつつあるのが現状である。

 「高齢者の財布を政府は狙っているのです」

 講師は、病気になりやすく、療養が長引きがちであり、複数の病気を持つことが多いといった高齢者の健康状態の特徴について述べたうえで、制度上、当然として増える高齢者医療費に対する単純な切捨てに警鐘を鳴らした。そして、壮年期における「生活習慣病」、高齢期における「危険な老化」の予防として、早期発見、早期対処の必要性を挙げた。

 続いて講師は「在日コリアン高齢者の健康に関する比較研究」について言及した。

 大阪市生野区A地区在住の高齢者(65歳以上)494人(有効回答、日本人221人、在日コリアン204人)を対象としたこの調査では、平均年齢、男女比での差はなかったものの、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病など生活習慣病の罹患率、抑うつ、転倒の割合及び「生きがいがない」と答えた高齢者が、在日コリアンに多いことが判明。また、就学年数、識字率、年金受給率や基本的、手段的ADL(Activities of Daily Living、日常生活動作または日常生活活動)、QOL(Quality of Life、生活の質)の各項目において日本人のそれより、有意に低い結果が出たと講師は述べた。

 このほか、日本人よりも罹患率などが高かったにも関わらず、介護保険や福祉、介護サービスの利用状況が相応に高くなかったことから、まず制度を知ることが肝要であり、介護保険外からのアプローチ、つまり行政サービスの積極的利用などについて強調した。

 まとめとして講師は、「福祉」という制度を考えた場合、基本的には在日同胞が利用できない制度はないが、介護保険利用に際しては経済面の問題に加え、介護保険施設やデイサービス、ヘルパーが日本人であることから利用を抑制している可能性を示唆。介護保険制度以外の老人福祉のサービスに参加しにくい状況が横たわっていると指摘した。そして、民族の独自性を持たせた高齢者福祉サービス、介護保険サービスの必要性が浮かび上がってくると提言した。

 質疑応答での、「あまりにも介護保険制度が知られていない」「ほったらかしにされた高齢者はどうすればよいのか」「なにをすればよいのか」という意見に講師は、高齢者であろうと必ずなんらかの役割があることから「社会的役割」を高めることと、長寿会などの積極的な運営こそが一番の介護予防につながると答えた。

 組織的対策として、勉強会の質と量の向上、「前期高齢者」が「後期高齢者」をケアする体制の構築など、早急な対応が不可欠との意見が交わされた。

 同講座第3回は「こども家庭福祉How to」(11月10日、同センター)。(鄭尚丘記者)

 ※NPO法人同胞法律・生活センターでは、暮らしをテーマにした各種の講座、学習会を企画し、そこに適切な講師を派遣します。地域の同胞を対象にした講座等の開催を検討されている総連本部、支部の担当者のみなさん、お気軽に事務局までお問い合わせください。TEL 03・5818・5424、FAX 03・5818・5429

[朝鮮新報 2007.10.29]