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〈在日朝鮮学生学術フェスタ 論文賞〉 差別的融資を防止し金融機関の公共性を追及する法律についての考察

 1997年の金融危機以降、日本の金融機関の中小企業に対する貸し渋り、貸しはがしが促進され、中小企業の資金調達活動は困難を極めている。そのような中で、中小企業などに対する差別的融資を防止し、金融機関の公共的性格を追及する法律を制定すべきであるという議論が学者および中小企業同友会を中心として巻き起こった。

 その法律案は、米国で1977年に制定された地域再投資法(Community Reinvestment Act、CRA)を基本的な見本とし作成されている。

 CRAとは、銀行は利潤を追求する存在でありながらも、社会的な公共性を強く帯びているという認識から、金融機関に対する評価を収益力と自己資本比率だけではなく、地域社会貢献性という見地からも実施する事を監督当局に義務化させる法律である。

 地域社会貢献性とは、社会的弱者に対する差別的融資の防止、中小企業に対する融資などが含まれる。

 周知のように、同胞企業の多数は中小企業に属し、民族金融機関は同胞企業の発展に貢献している金融機関である。

 よって、日本版CRAが制定されれば同胞企業、民族金融機関に少なくない影響があるはずだ。

 本論文では、主にCRAの米国での効果を中心に研究し日本版CRAが導入される意義と、同胞企業、民族金融機関に与えうる影響を考察することに目的をおいた。

 まずCRAは、1960年代、米国で社会的に差別を受けていた黒人やマイノリティーなどが住宅ローンなどを設定しようとした時、銀行が差別的な対応をして融資を拒否したり、住所が低所得者の多く住む地域内にある人に対して融資をしない、などの社会問題に対する解決策として制定された法律である。

 この法律は、金融機関を評価するうえで自己資本比率のような経営の健全性を判断する指標だけではなく、地域社会に対する貢献性を「優秀」「合格」「改善必要」「要改善」「不合格」などの基準で格付けをし、格付けが低い金融機関に対しては営業免許、支店の開設、移転、合併、買収などを申請する際に、申請の棄却という形で罰則を課し、金融機関の公共性を維持しようというものである。

 この法律導入による米国金融機関への影響を分析した結果、数行の金融機関が社会貢献性が低いことによって買収申請を棄却されたり、支店開設認可を取り消されたりする事態が発生していたことがわかった。そのような金融機関の中にはバンク・オブ・アメリカ/コンチネンタルなどの大手銀行も含まれていた。

 また、低所得者やマイノリティーに対する信用供与にも多くの効果が見られた。

 90〜95年にかけての住宅ローンの増加率は、白人において70%であったのに対し、黒人においては193%、ヒスパニック系住民においては92%という顕著な変化が見られた。要因としては低所得者市場の成長をあげることができるが、低所得者に対する差別的融資の是正を義務化するCRAの影響は大きかったといえよう。また低所得者に対する信用供与金額とCRA評価において合格した銀行の行数には相関関係があるとの分析結果も存在する。

 それだけでなく、CRAはマイノリティー所有の金融機関や企業に対する融資も、その評価基準としている。CRAの問題意識がマイノリティー所有の企業にもおよんでいるという事実に対する認識は、日本社会に今なお存在する在日朝鮮人に対する融資差別の社会的後進性を指摘するうえでも重要であろう。

 分析結果として、@CRAは金融機関が社会的公共性を無視し、利潤追求のみを行うことに対する抑止力となりえたということA低所得者やマイノリティーに対する信用供与に大きく貢献したということB金融機関の社会貢献に対する法的抑止力が、金融機関が公共性を意識した経営を行うインセンティブとなりうるという結論に至った。

 日本において、中小企業に対する融資差別が今なお深刻な状態にある中で、また在日朝鮮人に対する融資差別が依然として存在する中で、すでに米国において制定されたCRAのような法律に対する研究は重要な示唆を含むものであった。

 また、それは同胞企業の信用ニーズを満たしてきたわが民族の財産である民族金融機関を発展させるうえでも有益なものであろう。(朝鮮大学校 経営学部3年 金光日、゙泰京)

[朝鮮新報 2007.12.17]