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〈朝鮮・水害被災地ルポ-上-〉 黄海北道谷山郡

住民一丸で復旧に全力、被災者も一緒に汗流す

 【平壌発=文・金志永、姜イルク、写真・盧琴順記者】黄海北道谷山郡は今年の夏の集中豪雨(8月7〜14日)によって被害を受けた地域の一つだ。7日晩から雨が降りはじめ、翌日明け方には谷山郡邑中心部を流れるホリ川が氾濫した。建物が破壊され農耕地の作物が流失、人命被害も出た。

川岸整理に総動員

邑中心部を流れるホリ川の復旧工事を行う住民

 谷山郡では、住民の緊急避難と1次救急措置が完了した8月中旬から復旧作業に着手した。ホリ川の川岸整理が最初の対象。郡内の住民が総動員で川床を1メートルさらに深く掘り、堤防を補修する作業にあたった。家財を失った人々も作業に参加した。

 「復旧作業の現場では被災者と支援ボランティアを区別しない。それほど被害の規模が大きかった」

 谷山郡人民委員会のリ・ソンリョン副委員長(45)によると、7日午後6時から翌日午前11時までの17時間の間に431ミリの記録的な豪雨が降った。幅22メートルのホリ川が増水し、7メートルの高さの堤防を壊した。邑中心部は水位が1.5メートルまで上昇し、全ての建物の1階部分が水に浸った。

 川辺には、ホリ川の氾濫で3階部分まで完全に崩れたアパートも見られる。洪水が建物の土台をすさまじい威力で崩した。

 谷山邑地区には単層と高層を合わせて約1400棟の住宅、建物があるが、今回の豪雨で212棟(635世帯)が完全に破壊された。人口約13万人、谷山郡全体では全壊住宅が567棟(991世帯)、浸水被害は744棟(1889世帯)に達する。学校、託児所、病院、工場、脱穀場など公共の建物も304棟が破壊、浸水の被害を受けた。

 「水害発生直後から住宅を失った被災者を安全な公共施設に避難させ、被害の少なかった世帯と同居するようにした。今、彼らは一丸となって復旧作業に取り組んでいる」と副委員長は話した。

土砂に埋もれた家族

豪雨で母親を亡くしたパク・ピョンホさん

 谷山郡の中心部にはアパートがずらりと立ち並んでいるが、周辺部の山麓には平屋造りの住宅が多い。

 「8日の明け方、寝ていたらなんとなく不安な気分になった。家族とともに雨の降りしきる家の外に出た瞬間、目の前で山が音を立てながら崩れた」

 パク・ピョンホさん(40)が住んでいた平屋住宅は山崩れによって完全に破壊された。彼は土砂に埋まった妻を必死で救出した。しかし母親は間に合わなかった。母親を助けられなかったパクさんは、泣き叫ぶ息子の手を引いて、数十メートル離れた避難所に逃げるしかなかった。

 記者が現場を訪れたのは、それから約2週間後。

 「食糧と生活必需品はすべて保障された。つらくても、何もしないわけにはいかない」(パク・ピョンホさん)

 谷山郡では今回の豪雨で10人が犠牲になった。肉親を失った被災者も、国と地方行政の救援対策と地域住民の援助を受けて当面の生活が安定してからは復旧作業に参加している。

 8月下旬の時点で谷山郡では、教育や医療機関を除く全ての機関が正常に活動をしていない。工場、企業所では生産活動を中断し、洪水被害の復旧作業に力を注いでいる。郡人民委員会ではホリ川の川岸工事に続いて住宅の建設と電気、逓信、交通網の復旧などを行っていく計画だ。

 パク・ピョンホさんは現在、教員再教育講習所の建物で他の被災者40人余りと共同生活をしている。パクさんの職業は道路管理員だ。道路の復旧作業は仕上げ段階に入った。しかし彼が以前の暮らしを取り戻すのには、しばらく時間がかかりそうだ。

 「多くの農耕地が冠水、埋没、流失した。今からでもできるかぎりのことをして、生かせる部分は生かさなければならない」

食糧問題が心配

被害を受けた邑協同農場のトウモロコシ畑

 谷山郡住民の80%は農民世帯だ。邑協同農場の場合、8月初めまでは水稲やトウモロコシも作柄が良かった。しかし、洪水被害により今年の収穫をほとんど期待できなくなった。

 邑協同農場のペ・キョンイル技師長(43)の説明によると、水稲は133.8ヘクタール中125ヘクタールが冠水し、5.5ヘクタールが倒伏、2.9ヘクタールが埋没、0.1ヘクタールが流失した。トウモロコシは103.3ヘクタール中7.3ヘクタールが冠水、15.2ヘクタールが倒伏、5.7ヘクタールが流失、16.1ヘクタールが埋没した。

 「水稲はヘクタールあたり平均4.2トンの収穫を見込んでいたが、今の状況では1.9トンしか収穫できそうにない。4.7トンを予想していたトウモロコシも、2.1トン程度にしかならない」

 邑協同農場では水路復旧工事に続き、埋没した土地を整理して秋野菜を植える予定だ。

 「時期が遅れたが仕方ない」とペ技師長。

 彼によると土砂や小石、枯れ草が広がる土地で作業するのは農場員だけではない。パク・ピョンホさんをはじめとする農場周辺の住民も現場で汗を流す。

 「当面の食糧は保障されているが、谷山郡の農作は甚大な打撃を受けた。私たちだけではなく、国全体が洪水被害を受けた。目の前の困難は峠を越しつつあるが、次は長期的な食糧問題が起こるかもしれない」(ペ技師長)

[朝鮮新報 2007.9.5]