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〈戦略的展望の見えない日本の姿勢−下〉 共和国の核保有と朝・日関係

 94年10月、ジュネーブで調印された朝米基本合意文は、両国関係の正常化、軽水炉支援、重油50万トンの毎年提供などをとり決めた。平壌とワシントンでは連絡事務所の建物と敷地探しが始まっていた。

 ほとんど正常な軌道に乗りかけた朝米関係を根本からひっくり返したのはブッシュ政権である。ブッシュは共和国に対し「悪の枢軸」「ならず者国家」と名指しで暴言を吐き94年の基本合意文を破棄すると言明した。この暴言は単なる罵倒ではない。

 それは「気にいらない」政権の転覆、テロとの戦いの名のもとに核先制攻撃を加える戦略をともなったものである。

 「大量破壊兵器がある」と全くのウソを口実にし、国連の反対にもかかわらず米国はイラクで大義名分のない戦争をはじめ無数の人を殺りくしている。都合のよい時は国連を利用し、都合の悪い時は国連を無視する傍若無人の米国が核先制攻撃をふりかざす時、戦争の危険はこのうえもなく現実的なものとなる。

 事実、ブッシュは「イラクの次は北朝鮮」であるとして共和国を転覆、破壊する孤立、圧殺政策を強化した。

 クリントン前大統領は軽水炉建設を保障すると金正日総書記に確認の書信まで送ってきた。しかしブッシュはこの約束を破り、軽水炉建設を担当するKEDO事業を破綻させた。そして暖房用燃料が最も必要な厳冬期を選んで重油の供給を断ち切った。

 ブッシュ政権は共和国を核攻撃対象国の一つと名指し、2003年からはかつてのチーム・スピリット核攻撃演習の内容を踏襲した演習を再開した。

 日本や南朝鮮は米国の核の傘下にいるが、共和国はどの国の核の下にも入っていない。この半世紀余りの間、共和国は米国の絶え間ない核の脅威の下にさらされ、苦しめられてきた。

 米国による核先制攻撃の脅威に直面して、民族と国家の自主権、生存権を守るため、朝鮮半島で再び戦争の火を放とうとする米国の手を押さえつけるため、共和国は決定的な抑止力として自衛の核を保有せざるをえなかったのである。

 朝米関係を検討していくと、一つの特徴が見られる。共和国と米国とは厳しい対決を続けているが、人の流れや交渉のパイプは断たれていないことである。

 元大統領カーター、現職の国務長官オルブライト、元国防長官ペリーをはじめ上、下院議員、州知事、財界人、高級軍人、マスコミ関係、有名な保守的キリスト教指導者のビリー・グラハム牧師や、「蝶のように舞い蜂のように刺す」伝説的なボクサーのモハメド・アリなど、実にさまざまな人が共和国を訪れている。

 共和国の核実験直後にも、ロス・アラモス国立原子力研究所の元所長ヘッカー博士、朝鮮を26回も訪れているスタンフォード大学のカーリン教授ら4人の専門家グループが訪朝し、帰米後の11月15日、ナショナル・プレスクラブで記者会見をした。

 ここで彼らは、北朝鮮がプルトニウム抽出でパルスド・コラム(Pulsed Column)という最新の先端技術を持っているのに驚いた、このたびの核実験は成功した小型核爆発であり、失敗とか部分的成功といった評価はあたらない、平壌は平静で自動車やオートバイも多くなり国連の経済制裁は効果をあげていない、など専門的な立場で共和国の現情を述べている。

 中間選挙で敗北し大きな打撃を受けたブッシュ政権は核不拡散体制の崩壊を恐れ、共和国が核保有国であることを認めようとしていない。しかし、彼らが認めようと認めまいと共和国は厳然たる核保有国であり、米国はこれまでのような挑発的態度で共和国に対することはできない。

 米国の外交政策で大きな影響力をもつ民主党の上、下院外交委員会委員長は両人とも、訪朝の意思を表明し共和国との国交樹立についても言及している。共和党内にもこれに同調する動きがあり、保守系の有力紙ウォールストリート・ジャーナルは支持の論説を掲げた。共和国の核保有後のこうした米国の動きは、これまで見られなかったことである。

 しかし日本ではこれとは逆の傾向がみられる。日本政府は、かえってこれまで細々ながら続いてきた人の流れや交渉のパイプを断ち、拉致問題を全面的におしだして強硬姿勢を強めている。そして朝・日親善交流で大きな業績があり、これからも重要なパイプとしての役割をはたすべき総連を弾圧し、多額の固定資産税を強要して財政的におしつぶそうとしている。

 総連と傘下団体にたいする放火、銃撃事件、脅迫電話、不法捜索、朝鮮学校の幼い学童への卑劣な暴行は後を絶たない。

 報道によれば日本政府は、家族や親せきと会うため共和国に往来する在日朝鮮人の再入国許可や預貯金も規制する措置を検討しているという。事態がここまでくれば在日朝鮮人を人質にして日本列島内に監禁し、共和国とは関係を断つことになる。

 小泉前首相は04年5月の再訪朝に際し、「日朝間の不正常な関係を正常化し、敵対関係を友好関係に、対立関係を協力関係にかえることは両国の利益にかなう」と所信を表明した。

 共和国と日本とは遅かれ早かれ国交を正常化しなければならない国である。にもかかわらず敵対関係をますます増大させ、対立関係をさらに悪化させるならば深い禍根こそ残れ、両国百年の大計を目指す平和や友好の礎を築くことはできないだろう。

 圧力を加えれば「北朝鮮崩壊」につながるかのような主観的願望にもとづいた日本の高姿勢は空しいばかりでなく、統一に向けて進んでいる北南朝鮮の現実とはあまりにもかけ離れている。

 敵対感情をあおるだけで、朝・日関係改善のための建設的対策を何も示さない強硬一辺倒の政策には出口がなく、戦略的展望を持った読みの深いものとはみられない。それは日本国民の真の要求とはなりえないし、両国民の利益に合致するものでもない。(白宗元、歴史学博士)

[朝鮮新報 2007.1.18]