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そこが知りたいQ&A−労働新聞が報じた フジテレビ スイス「拉致報道」の真相は?

「侮辱、悪質なねつ造番組」 男女は夫婦、怒りあらわの当事者

 テレビのスイッチを入れると、連日洪水のようにあふれている偏見とねつ造、わい曲にみちた「北朝鮮報道」。そうしたなかで、労働新聞1月15日付は、「昨年8月と12月、日本のフジテレビの取材班が駐スイス朝鮮大使館と現地の友好親善団体幹部らに対するスパイ行為を働き、朝鮮によるアジア人女性拉致事件をねつ造しようとした」とする論評を発表した。一体スイスで何があったのか。駐スイス朝鮮大使館と現地関係者に取材した内容を基にQ&Aで検証してみた。

 Q 事件の経緯は?

事件の真相に関して「スイス委員会」が本紙あてに送ってきた回答

 A フジテレビの取材班が昨年8月と12月、スイスにある朝鮮との友好親善団体「朝鮮の自主的平和統一支持スイス委員会」(以下、「スイス委員会」)や「ローザンヌ平壌文化交流センター」(「交流センター」)の関係者を取材。これを基に同局は、9月10日と12月17日の2回にわたって報道番組「特命取材班報道A」を放送し、「夜の北朝鮮大使館で開かれる『謎のパーティー』」「北朝鮮・欧州第2の拉致ルート徹底追及」などの内容を特集した。

 「スイス委員会」は昨年12月30日に抗議声明を発表、同局の取材によってメンバーらが誹謗中傷を受け名誉を毀損されたと訴えた。今年に入って労働新聞がいきさつを報道したことで明るみに出た。

 Q 番組が「北朝鮮による拉致」を主張した根拠は?

 A 8月11日、駐スイス朝鮮大使館を出発した車両が同国西部の都市ヌシャテルで白人男性とアジア人女性の若いカップルを乗せたあと、ベルン郊外の朝鮮大使館に入った。フジの取材班はローザンヌからベルンまで車を追跡、その一部始終を撮影した。

 同番組はこの事実を基に「北朝鮮によるアジア人女性拉致」と騒ぎ立てた。しかし、白人男性は「スイス委員会」の書記長、アジア人女性(中国人)は彼の夫人だった。つまり、朝鮮解放61周年祝賀行事に招待された現地親善団体の幹部とその夫人が、迎えの車に乗って大使館に入った事実を「拉致」だと言っているのだ。行事終了後、書記長夫妻が大使館を出て帰宅したことも確認されている。

 大使館関係者によると、そもそも「パーティー」は8.15を記念して毎年開催されているもの。「謎」でも何でもない。ある職員は、「国家的な記念日にゲストを招いて祝賀行事を行うのは、どの国の大使館もやっていること」と話し、「拉致」については「あまりにもばかばかしくて、反論する気すら起きない」と一蹴した。

 Q 「スイス委員会」と「交流センター」は、どんな団体なのか?

 A 「スイス委員会」は1976年に結成され、会員は約100人。一方の「交流センター」は90年に結成、会員は約20人。両団体とも両国の友好親善や相互交流のための活動を行っている。もちろん当局公認の合法団体だ。

 Q 番組では親善団体のメンバーが「拉致」に加担したように描かれているが。

 A これは意図的な情報操作だ。

 番組では、「スイス委員会」のマルティン・レチェル委員長にインタビューしているが、「大使館とパーティーについて尋ねられると彼の様子が一変、動揺しだした。大使館の車に乗り込むカップルの写真を見せると、『知らない』の一点張りでインタビューを打ち切り、取材班を部屋から追い出した」と報じた。委員長の「不可解な反応」に対して番組ナレーションは、「一体2人はどこにいるのか? 彼は何かに動揺し何かを隠しているように見えた」と、レチェル氏の「犯罪への関与」を暗にほのめかした。

 レチェル氏にインタビューでのやりとりを確認したところ、「書記長夫妻を巻き込まないために、わざと『知らない』と答えた」と語った。「フジの取材班は容疑者を尋問する捜査官のような口調で、私が『拉致』に関与したと認めさせようとした。攻撃的で傲慢な態度だった」。

 書記長への取材場面でも、彼が女性リポーターに「暴力」を振るおうとしたかのように強調し、「拉致に関与した者」がその痕跡を消そうと騒ぎ立てているかのように見せた。しかし当人はそれを取材班の「芝居」だと証言する。

 「私は彼らの取材態度を非難したが、女性リポーターは聞く耳を持たず、乗っていた車の運転手に車を出すように言った。私は車に近づきドアを開けて質問しようとしたが、彼女は大げさに叫び声を上げ、ドアを乱暴に閉めて立ち去った」というのが真相だ。

 ほかにも、番組内容と現場にいた人物の証言が食い違っている箇所が多々ある。レチェル氏ら関係者は、「われわれに対する侮辱であり、朝鮮に負のイメージを植え付けようとする悪質なねつ造番組だ」と怒りをあらわにしている。

 Q フジ側の反応は?

 A フジテレビに事実関係を質す質問書を送ったが、「番組は事実を報道したもの」であって、「指摘された件に関しては理解に苦しむところが多々あり、答えようがない」との回答(同局広報部、1月30日付)が返ってきた。

 Q 番組では真に迫った部分もあったように思えた。

 A 撮影された映像自体は確かに「事実」かもしれない。しかし、発言の真意を無視した意図的な抽出、実際の文脈から切り離された断片的な映像の恣意的編集など、一種の「ミスリード報道」の手法といえる。

 「拉致」ねつ造までの流れはこうだ。まず、「北朝鮮大使館で開かれる謎のパーティー」「消えた若い男女」といった、朝鮮による犯罪行為を視聴者に印象づけるストーリーを作る。その後、現地親善団体幹部の「怪しい言動」をことさらに強調、最後は「拉致されかけた」取材班が恐怖で叫び声を上げる場面で締めることで、「北朝鮮とそのスイス拠点組織による拉致工作」ができ上がる。

 そもそも、アジア人女性に対する「拉致事件」自体が存在しないため、同番組の主張は根底から崩れている。「拉致」を立証するために持ち出した「不可解な動き」や「謎」も無意味だ。

 また同番組に出演した「北朝鮮専門家」の発言もひどい。「(フジの取材班は)入口まで拉致を体験した」(ジャーナリスト・高沢皓司氏)、「彼(「スイス委員会」書記長)が女の子を騙して大使館に連れて行って、それでどこかに送ったということはまちがいない」(特定失踪者問題調査会・荒木和博代表)などと、めちゃくちゃな発言を公然と行っている。

 Q 最近メディアの朝鮮報道が悪質になっている。

 A 安倍政権の対朝鮮強硬政策と在日朝鮮人に対する弾圧が強まっている政治的背景とも無関係ではない。

 「北朝鮮報道」の実態に詳しい関係者は、「朝鮮関連の報道では、情報の意図的操作やねつ造が公然と行われている」と話す。

 また、視聴率至上主義のもと、テレビ媒体では報道にもセンセーショナリズムが求められている。とくに朝鮮報道にその傾向が顕著だ。関係者は、「北朝鮮だったら何をやっても許される」という雰囲気が蔓延しているメディアの現状は危惧すべき事態だと指摘する。

 「初めに結論ありき」で、都合のいい断片的事実をつなぎ合わせ自らが意図する結果へと導く。この手法は、最近の「発掘! あるある大事典」のねつ造問題にも一脈通じるところがあるだろう。

[朝鮮新報 2007.2.7]