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「HEU核開発計画」 米国情報の信憑性に疑問の声

朝鮮側 存在を一貫して否定 「イラク問題の失敗例に酷似」の指摘も

 「第2次朝鮮半島核危機」の発端となった「北朝鮮による高濃縮ウラン(HEU)核開発計画」をめぐって、「北朝鮮に核兵器に転用可能なHEU計画が存在する」との米国側の主張に疑問を呈し、「意図的な情報操作」の可能性を指摘する声が最近相次いで上がっている。朝鮮側は2002年の問題発生当初から「HEU計画」の存在を一貫して否定、同問題を今後の協議の場で厳しく追及する構えの米国に対して、「疑惑」の解消に自信を見せていると伝えられている。「HEU問題」の発生経緯と双方の主張、最近の動きなどをまとめた。(李相英記者)

「米は確証示さず」

 

米国

朝鮮

ケリー訪朝時のやりとり 10月5日に行われた米朝高官協議の席上で、ケリー国務次官補が北朝鮮の核関連施設の衛生写真及び、兵器級ウランを分離するための遠心分離機の購入請求書など核関連技術取得に関する資料を示したところ、北朝鮮側は当初この事実関係を否定したものの、交渉の終盤になって一転して、高濃縮ウラン製造施設建設を含む核兵器開発を進めていると米国側に認めた。(10月16日、国務省声明) 米国側は何の根拠資料もなく、われわれが核兵器製造を目的とした濃縮ウラン計画を推進して朝米基本合意文(94年)に違反していると言いがかりをつけた。われわれは増大する米国の核の脅威に対処して、自主権と生存権を守るため核兵器はもちろん、それ以上のものも持つ権利があると米国側に明言した。(外務省スポークスマン談話、10月25日)

その後の対応

朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)理事会(11月14日)の決定に従い、対朝鮮重油給油を停止。 核施設の凍結解除表明(12月12日、外務省代弁人談話)後、核開発活動再開措置実施。核拡散防止条約(NPT)脱退を表明。(政府声明、03年1月10日)

 「HEU問題」は、02年10月、ジェームス・ケリー米国省次官補(ブッシュ大統領特使)訪朝時の朝米協議が発端となった。

 ケリー特使訪朝の10日後、突如米国は「(朝米協議で)北朝鮮がHEU核開発計画の存在を認めた」と発表。それに対して朝鮮側は「言いがかり」であると事実関係を強く否定、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の重油供給中止決定への対応措置として核開発活動を再開し、03年1月には核拡散防止条約(NPT)からの脱退を表明した。米国が持ち出した「HEU疑惑」を機に朝米基本合意は破綻し、朝鮮半島情勢の緊張は激化の一途をたどった。その後、朝鮮の核実験実施(昨年10月)へと至る経緯は周知のとおりだ。

 ケリー訪朝時のやりとりに関する米国側発表の信憑性を疑問視する見解は、「疑惑」が持ち上がった当初から存在した。

 朝鮮外務省のオ・ソンチョル局長(当時)は本紙記者とのインタビュー(03年1月)で、「(濃縮ウラン核開発の)証拠を示せとの朝鮮側の要求に、ケリー特使は衛星写真を提出しなかったばかりか、核開発の場所すら明示できなかった」と、米国側が確たる証拠を提示しなかったことを明らかにした。また、朝鮮側は「HEU核開発計画」を明確に否定したと指摘、「自衛目的の核兵器保有の権利を主張した発言を、米国側が『核開発是認』と錯覚するような余地はない」「米国側が発言を恣意的に解釈、ねつ造した」と断言した。

 「米国側は朝鮮側の発言を、ケリーの指摘(「北はHEU秘密プログラムを持っている」)に対する是認であると解釈することにした」(ドン・オーバードーファー氏、02年11月10日付ワシントン・ポスト)との指摘もある。

 また驚くべきことに、当のケリー氏自身が「北朝鮮が何をしているか当時も今も分かっていない」「(訪朝した際朝鮮側は)計画内容の詳細を話さなかった」と、不確かな情報に基づいて行動した事実を証言している(5日発売「ニューズウィーク」)。

強硬一辺倒から後退

 「HEU計画」に関する米国の主張は、「朝鮮が2000年代初頭からウラン濃縮に必要な遠心分離機やアルミ管をパキスタンなどから購入して、高濃縮ウラン生産施設を建設している」(02年11月の米中央情報局報告書)などの情報に基づいたもの。朝鮮側は一貫して事実無根であると否定、「米国が自らの敵視政策を合理化して朝米間の合意を破棄するために考案したもの」(外務省代弁人談話、04年10月8日)などと非難してきた。

 これら米国の主張に対しても、最近専門家を中心に懐疑的な見方が広がっている。

 口火を切ったのは、核問題を専門に扱う米シンクタンク、科学・国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長。2月初旬に訪朝、朝鮮側関係者と意見交換した同氏は同月23日に発表した報告書の中で、米国の主張を「米情報機関がイラクは秘密裏に核兵器開発を企てているとの誤った結論を出しイラク戦争につながった『大きな失敗例』に似ている」と指摘、「02年のCIAの分析は信頼性に問題があり、HEU生産施設は存在しないだろう」と結論づけた。

 一方、朝鮮のウラン型核兵器開発を既成事実化し朝鮮に圧力をかけてきた米国の強硬一辺倒の姿勢にも変化が見える。米政府当局者からは、同計画に関する米国側の情報の確度を修正する発言が相次いでいる。

 6者会談米国側代表であるクリストファー・ヒル国務次官補は、朝鮮が当該計画を実行段階に移すためには「彼らが手に入れた以上の機材が必要」「朝鮮側が技術取得に成功したかは不明」などとし、米国の情報不足を認める発言を行った(2月22日の記者会見)。また、「計画の進展段階については論議の余地がある」「アルミ管が計画に使われていないのなら、どこに行ったのかを話し合うことができる」とも話した。これは、計画の存在に固執せず問題解決が可能という意味にもとれる。

 米政府関係者は依然、「HEUプログラムの有力な証拠がある」(2月21日のロイター通信)と述べているが、金桂官外務次官ら朝鮮側関係者は今後の協議で、米国側の「証拠資料」に反論する意向を示しているという。

 「HEU疑惑」以外にも、「凍結されたバンコ・デルタ・アジアの朝鮮関連口座の資金は全て合法だった」(マカオ金融当局者、1日付中央日報)や「北朝鮮の麻薬不法取引支援の確証はない」(米国務省の報告書)など、「北朝鮮の国際的不法行為」に対する米国の「制裁措置」の正当性を根底から揺るがすような発言が、相次いで伝えられている。

 「HEU」問題は現在の核問題の引き金となっただけに、米国側の主張が誤った情報に基づいているかねつ造だとすると重大な問題だ。米国は内外の批判を免れないだろう。

「HEU計画」に関する専門家、関係者の発言

[朝鮮新報 2007.3.7]