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「慰安婦」問題 安倍発言 各国から激しい非難の声

「強制性はなかった」 米、中、豪、北南当局 強い抗議、遺憾表明

 安倍首相の「従軍慰安婦」をめぐる発言に対し、各国から激しい非難の声がわき起こっている。問題の発言は、「従軍慰安婦」問題の「強制性について、それを証明する証言や裏付けるものはなかった」(1日、93年の「河野洋平官房長官談話」についての報道陣の質問に対し)、「官憲が家に中にまで入って連れていったという強制性はなかった。米下院外交委員会の決議案は客観的事実に基づいていない。決議があっても謝罪することはない」(5日、参院予算委員会)。

知日派も危機感

安倍首相の主な発言

 97年5月27日(衆院決算委員会分科会) 「いわゆる『従軍慰安婦』の強制性について検証する文書が出てきていない」

 97年12月(「 日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」への寄稿文) 「1993年8月4日の河野官房長官の談話は当時に作られた日韓両国の雰囲気の中で事実よりは外交上の問題を懸念したものだ。また証言者16人の聞き取り調査に対する何の裏付けがなかったにもかかわらず、軍の関与・官憲の直接加担があったと認めて発表したという事実が判明された」

 06年10月6日(衆院予算委員会) 「狭義の強制性と広義の強制性がある。家に乗り込んでいって強引につれて行ったのか、自分としては行きたくないけどもそういう環境にあったのか」

 07年3月1日(記者団に) 「強制性についてそれを証明する証言や裏付けるものはなかった。その定義が(狭義から広義に)変わったということを前提に考えなければいけない」

 07年3月5日(参院予算委員会) 「官憲が家の中にまで入って連れていったという強制性はなかった。米下院外交委員会の決議案は客観的事実に基づいていない。決議があっても謝罪することはない」「米下院で行われた証言のうち、いかなるものも確固たる証拠を提示していない」

 07年3月9日(参院予算委員会) (米下院決議案について)「(元慰安婦に対し)本当に心から同情し、すでにおわびも申し上げている。しかし、必ずしも発言が正しく冷静に伝わらない。事実と違う形で伝わっていく現状で非生産的な議論を拡散させるのはいかがなものか」

 05年までホワイトハウスでアジア問題を扱っていたマイケル・グリーン前米国国家安全保障会議(NSC)上級アジア部長は、「強制されたかどうかは関係ない。日本以外では誰もその点に関心はない。問題は『慰安婦』たちが悲惨な目に遭ったということであり、永田町の政治家たちは、この基本的な事実を忘れている」と批判した。グリーン氏は日米関係にとってこの問題は、「牛肉問題や沖縄の基地問題より危ない」と見ている。

 一方、J・トーマス・シーファー駐日米大使は9日、東京都内の大使公邸で日本の記者団と会見し、米下院決議案と関連して「この問題の米国での影響を過小評価するのは誤りだ」「河野官房長官談話から後退すれば破壊的な影響を与える」と述べ、米政府としても事態を憂慮していることを明らかにした。

 1月31日、日本当局の責任認定と首相の公式謝罪を求める内容を盛った「従軍慰安婦決議案」が提出された米下院では、安倍首相の発言を受け、「決議案」支持の動きが広がっている。

 「決議案」代表提出者のマイク・ホンダ議員(民主党)の事務所によると、「決議案」共同提案者は当初の6人から42人(民主党32人、共和党10人、9日現在)に増えた。08年の大統領選への出馬を表明している保守派のダンカン・ハンター前軍事委員長(共和党)も名を連ねているという。

 ダナ・ローラバッカー議員(共和党、2月15日に米下院で行われた「慰安婦」被害者を招いての初の公聴会で日本擁護発言)は6日、安倍首相の発言をふまえ、これまでの「決議案」反対姿勢を翻した。

 こうした状況下、「米国内のジャパン・ウォッチャーや日本支持者は落胆するとともに困惑している」(カート・キャンベル元国防次官補代理)という。そして、「このまま行けば、米国内での日本に対する支持は崩れる」との指摘も出ている。

豪首相も強い遺憾

 オーストラリアのジ・エイジ紙(13日)によると、ジョン・ハワード首相は12日、安倍発言を受け、「過去の出来事についてつまらない言い訳はしてはいけない」と指摘。「慰安婦」被害者に対する「強制動員がなかったという主張は、私としては絶対に受け入れることができないことであり、ほかの同盟国も絶対に受け入れることができない主張」であると強調した。

 南朝鮮は3日、外交通商部当局者論評を発表し、政府の強い遺憾を表明した。これに先立ち宋旻淳外交通商部長官は2日、ワシントンで行った演説で、日本と南朝鮮の健全な関係構築において有益でないと述べた。

 中国の李肇星外相は6日、北京の人民大会堂で記者会見を行い、日本政府の責任負担と問題の適切な処理を求めた。中国国営通信の新華社は4日までに、「日本の犯罪を示す決定的証拠は山のようにあり、否定は許されない」と指摘する論評を発表した。

 台湾では6日、外交部が声明を発表し、「深い遺憾と厳重な抗議」を表明。蘇貞昌行政院長(首相に相当)も同日、「事実を正視しない、いかなる政権に対しても厳しく抗議する」と述べた。

 朝鮮外務省スポークスマンは7日に談話を発表、「厳然たる歴史的事実と国際社会の公正な世論にあえて挑戦している」と安倍首相を厳しく非難した。

 また、カナダ主要政党の一つである新民主党(NDP)の議員は、8日の国際婦人デーに際し、下院に「慰安婦」被害者に対する日本政府の公式謝罪と補償を要求する法案を提出した。

 各国のメディアも一様に安倍発言を非難している。

矛盾する立場

 安倍首相は、各国の強い非難をかわそうと、あわてて「河野官房長官談話」継承を口にしたが、糊塗策にすぎない。そのことは、首相就任以前の活動と発言などからも明らかだ。

 安倍首相は、それまでの日本の歴史教育に異議を唱え、侵略の過去を全面的に正当化している「新しい歴史教科書をつくる会」を支援してきた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(97年2月結成、「若手議員の会」)の事務局長を務めた。

 97年12月、「若手議員の会」への寄稿文で、日本政府が「従軍慰安婦」への日本軍の関与と強制性を認め、「おわびと反省の気持ち」を表明した「河野官房長官談話」は「日韓両国の外交上の問題を懸念したもの」で、証言者への「聞き取り調査にたいする何の裏づけもなかった」との見解を明らかにしている。

 また、ホームページ(98年〜01年まで、現存)に、「『若手議員の会』の中間報告」を掲載。「若手議員の会」で行われた勉強会によって、「いわゆる慰安婦問題がいかにわい曲されて伝えられているか」「日本の外交のこれまでのありかた(いわゆる謝罪体質)がいかに今日の問題を招く端緒となったか」明らかになったとしており、「今後は関係各方面に向けた政策提言、あるいはその実現のための働きかけに着手する」と表明している。

 「河野談話」を踏襲するとの立場と、その否定。矛盾はあらわだ。(呉陽希記者)

安倍発言 各国メディアの非難論調 「恥ずべき過去認めよ」

[朝鮮新報 2007.3.20]