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「従軍慰安婦」問題で真に問われているのは何か−上

恥ずべき国家犯罪

 今、「従軍慰安婦」問題が世界中で再び騒然たる話題を巻き起こしている。報道によれば、米下院外交委員会アジア太平洋・地球環境小委員会は、元「慰安婦」3人を招き、公聴会を開いた。その席で南朝鮮の元「慰安婦」は「私は(日本政府から)謝罪を受けていない。彼らが私の前にひざまずき、心からの謝罪をするまで私は訴え続ける」と言い、オランダ人の元「慰安婦」は、ジャワ島に住んでいたが、日本軍人に「刀を突きつけられて暴行された」体験を生々しく語ったという(朝日新聞2月16日付夕刊)。

 そもそも「従軍慰安婦」問題は、日本によるアジア侵略戦争時、日本軍隊によって、アジア諸民族の多くの女性たちが性奴隷として日本軍に奉仕させられた事実から発したものである。「従軍慰安婦」問題の本質は、人類社会の普遍的な人権侵害、人権蹂躪問題であり、日本の紛うことなき、そして恥ずべき国家犯罪である。ゆえに日本は謝罪し、被害者に罪を償わなければならない。それを安倍首相ら政府関係者が否定しようと躍起になっていることから騒ぎが大きくなったのである。

 元「慰安婦」の証言に対し、麻生外相は、衆院予算委員会で、「客観的事実に基づいていない。日本政府の対応を踏まえておらず、はなはだ遺憾だ」と発言した。

強制性認めた「河野談話」

 麻生外相の言う「日本政府の対応」は、1993年8月に出された所謂「河野談話」を指すものと思われる。

 「河野談話」は正式には「慰安婦関係調査結果発表に関する内閣官房長官談話」という。当時の内閣官房長官が河野洋平氏だったので、「河野談話」と呼ばれるが、その内容は「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当ったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、さらに、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」とし、軍、官憲の関与を認めたものである。

 そして「慰安婦」の出身地について、「日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」とある。つまり、朝鮮「慰安婦」が大きな比重を占めていたし、状況は強制的だったと認めたのである。

 そのうえで「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」として、「従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」とつづけたのである。

安倍発言にいっせい反発

 安倍晋三氏は、総理の座についたばかりの昨年10月上旬、中国と南朝鮮の両国訪問を控えた時期、衆議院予算委員会で、「河野談話」を継承することを表明したはずなのに、3月5日の参議院予算委員会では、米下院での「従軍慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求める決議案について、「決議があったからといって、われわれが謝罪するつもりはない」と言い放ち、また、「官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった。狭義の強制性を裏付ける証言はなかった」と言い、さらに小川敏夫氏(民主)が「ではどういう強制があったか」と問うと「当時の経済状況や間に入った業者が事実上強制したケースもあっただろう」と述べた。

 米下院で問題になっている決議案は、「従軍慰安婦」問題で日本政府に謝罪を求めるものであって、広義の強制や狭義の強制の有無を論議しているのではない。それを安倍首相は、「謝罪するつもりはない」と開き直り、返す刀で狭義の強制性はなかったとし、民間の業者がやったことだ、と「従軍慰安婦」問題での軍関与と強制性自体を否定したのである。

 この安倍発言に、当の朝鮮(北南)、中国はもとより、アジア各国、それに、米、英、豪などからいっせいに批判の声があがったのは、私が紹介するまでもなく、各紙の報道するところである。

「河野談話」修正の動き

 「河野談話」が出た経緯について言えば、日本政府が1991年12月から「朝鮮半島出身のいわゆる従軍慰安婦問題に政府が関与していたかどうかについて」当時の関連各省庁、つまり、警察庁、防衛庁、外務省、文部省、厚生省、労働省に資料提供を求め、その資料を調査し、さらに米国にも担当官を派遣し、米国の公文書などにも当たり、現地調査を行い、各関係者の聞き取りも行っているが、大事なことは多くの元「慰安婦」に直接聞き取りもやったうえで、軍、政府の関与と強制性を認めたものである(「いわゆる従軍慰安婦問題について」内閣官房内閣外政審議室、1993年8月4日)。

 ところが、である。日本には、この「河野談話」を見直すべきだと声高に叫ぶ人々がいる。その筆頭は、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長は中山成彬元文部科学相。ちなみに中山恭子拉致問題担当首相補佐官は中山氏の夫人である)である。

 この「議員の会」の人々は、「河野談話」の修正と「従軍慰安婦」問題の再調査を求めて活発に動き、右派系の御用評論家や、一部マスコミも調子を合せている。

 安倍首相は3月8日、中山会長らと会い、「河野談話」の修正と「慰安婦」問題の再調査要望に対し、「必要あれば調査する。資料も公開する」と明言したという(しんぶん赤旗3月9日付)。この日の「議員の会」の提言に、「民間業者による強制連行はあっても、軍や政府による強制連行という事実はなかった」とある(朝日新聞3月9日付)。何と恥知らずな人々であろうか。

 「民間業者」うんぬん−と発せられる時は、必ず軍と政府の関与を否定する前提である。日本の行為は天人共に許さざるところ、安倍首相らは黒白顛倒の、そして正邪を逆にした論で、歴史の改竄を図ろうとするものである。(琴秉洞、琴歴史研究家)

[朝鮮新報 2007.3.23]