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平壌外国語大学日本語科に教材を寄贈して 日朝相互理解促進のために

関係最悪の時期の訪朝

平壌外国語大学日本語科の学生らと交流する訪朝団

 日本政府が朝鮮に対する経済制裁を6カ月延長し、日朝関係が最悪の時期を迎えていた4月4日から11日まで、対文協(対外文化連絡協会)の招待で、一行8人の代表団を率いて訪朝した。主目的は日本語図書、教材支援。平壌外国語大学日本語科に古典、現代文学作品、教養書、時事問題の解説書など150冊を寄贈した。

 ひとくちに150冊といっても大小さまざまだが、8人全員がスーツケースいっぱいに重量制限ギリギリまで詰め込み、手分けして運んだ。折りしも団長の私が、昨年暮、第三書館から「北朝鮮核実験に続くもの」を上梓したのが縁で、社長の北川明氏から同社がシリーズとして出版している大活字版全集、「ザ夏目漱石」「ザ宮沢賢治」「ザ芥川龍之介」などが贈られ好評を博した。

 そのほかの寄贈図書の選定には、共同団長の米田伸次氏(帝塚山学院大学国際理解研究所特別顧問)があたり、日ごろから朝鮮大学校の学生と交流している東京国際大学下羽ゼミの学生が全面的に協力した。外国人留学生のための日本語教科書も最新版を一式進呈した。

 日本語科に限らず、同大学が外国の民間代表団からこれほど大量の図書を寄贈されたのは初めてとのことで、私たちに応対した洪敬變副学長、沈日日本語学科長は感激ひとしおだった。

格下げられた日本語科

一行が寄贈した図書類

 平壌外国語大学は、共和国創建翌年の1949年、ロシア語専修の大学として発足。その後、英語、中国語、フランス語、ドイツ語などが加わり、66年には日本語科も新設され、現在の22カ国語体制がととのった。

 英語、中国語、ロシア語の学生が一学年200人以上いて学部を形成、そのほかの言語が「民族語学部」として扱われ、全体で4学部からなっているが、近年はやはり英語学部志望者が断然多く、米朝国交正常化早期実現に期待をかけている空気が伝わってきた。

 対照的なのが日本語科で、日朝関係悪化を反映して、このところ志望者は激減し、今年度は50人を下回った。日本語志望者が最も多かったのは93年で、230人を超えたという。90年の金丸・田辺訪朝団が金日成主席の提案を受けて日朝国交正常化交渉実現の道筋をつけて以来、日本語科志望者が激増し、90年代は毎年200人を記録。このため99年には英中ロに次ぐ4番目の学部に昇格、一時は英語学部と並ぶ人気を集めたが、2002年9月の小泉訪朝を機に、皮肉なことに拉致問題が表面化して日朝関係が険悪化。志望者が次第に減り、今年度から再び民族語学部の一学科に格下げになったのだという。

 私たちの訪問を歓迎してくれた日本語科の5年生(朝鮮の大学は4年半で、ことし9月に卒業)6人は、異口同音に「日本語科を選択して後悔している」と語っていた。日本語を選んだ動機は、「わが民族に苦難と不幸をもたらした国を徹底的に研究してみたかった」という模範回答が多かったが、中には「日本は経済大国だから国交正常化の暁には有利な条件で仕事につけるだろうと思った」とホンネをのぞかせる学生もいた。しかし、その学生も「こんなはずではなかった。安倍内閣の朝鮮敵視政策でわたしの夢は打ち砕かれた」と嘆いた。

 私は、「国交正常化は歴史の必然だ。目先の情勢に一喜一憂せずに、長期的視野に立って日朝友好協力に尽くしてほしい。今回持参した図書を活用して日本語能力を磨いておきなさい」と忠告して大学を辞去した。

開城に次々と工場建設

平壌外国語大学日本語科の授業風景

 一週間の滞在中、前回の訪朝で叶わなかった開城工業団地訪問が実現した。南北合弁事業として03年暮に着手した計画で、2年前には2000万坪の敷地がほとんど更地だったが、見る見るうちに次々と工場が建ち、主に韓国の中小企業が進出してきていた。現在は300社、北の労働者2500人が韓国の技術者、管理職400人とともに作業に従事している。服飾、日用品、製薬などの業種が主だ。

 私たちはロマンソンという韓国の時計メーカーの腕時計組み立て工場を見学したが、言葉が同じで、北の労働者は労賃が安く、勤勉で手先が器用なので、競争力では日本、中国に負けないと韓国人工場長は自信をのぞかせた。「5年後には北の労働者10万人を擁するまでになり、北東アジアのシリコンバレーを目指している」と、全事業を統括している現代峨山の徐禮澤・開城事務所長は胸を張った。その言葉を、私たちの訪問に立ち会ってくれた北側の関係者が大きくうなずきながら聞いているのが印象的だった。

 宋日昊・日朝国交正常化交渉担当大使とも旧交を温めたが、「安倍内閣は拉致問題を政治目的に利用して解決を長引かせている」と悲憤慷慨することしきり。「そのとおりだよ、宋さん。しかし日本の世論の80%が安倍の圧力一辺倒の政策を支持しているんだ。それが問題だ」と私。「結局、日本は米国の外圧で動くしかないようだ。独立国として情けないね」というのが2人の結論だった。(吉田康彦、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授)(写真は筆者提供)

[朝鮮新報 2007.5.2]