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〈6者会談後の自信あふれる朝鮮を見た−上−〉 朝鮮外務省日本担当者に聞く

孤立深める安倍政権

李炳徳・朝鮮外務省日本担当研究員(右奥)とのインタビュー(写真はいずれも筆者提供)

 私は4月28日から5月3日まで朝鮮を訪れた。06年4月末に日朝友好の翼(大阪)の一員として訪問して以来1年ぶり、4度目の平壌訪問だった。6者会談の「2.13合意」を受けて対米関係正常化が進む中、朝鮮は経済改革に向けて着実に発展している。

 朝鮮はアリラン公演(4月14日〜5月5日)で、外国のメディア、観光客を誘致し、世界中から多くの観光客や商工人が来ていた。朝鮮にいないのは日本人と米国人だけだ。

 朝鮮は現在、日本の報道機関の入国をいっさい認めていない。対外文化連絡協会の洪善玉副委員長は、「日本に対するわが国の人民の感情はきわめて悪い。こういう状況で、日本のマスメディアのカメラが回ることは許せないというのが、率直な感情だ。日本メディアの取材は控えてもらっている」と説明した。こうした情勢下で、ジャーナリストも兼ねる大学教員の私の入国を認めてくれた。

 訪問したのは平壌周辺だけだったが、人々は落ち着いており、食料、エネルギー事情もさらに改善されていると感じた。町の中に個人商店が増え、さまざまなアイデアで生産、流通が行われている。

 日本の不当な制裁は何の効果もない。日本にいる在日朝鮮人にとっては、祖国に暮らす親せきや友人との交流に不都合なことが非常に多いが、朝鮮側のダメージはほとんどない。朝鮮は、日本以外の国々と友好をさらに深め、発展できるという確かな自信を持っているようだ。

国際手配は不可能

観客席から見た「アリラン」公演

 4月30日、朝鮮外務省日本担当研究員、李炳徳氏にインタビューした。李氏は宋日昊朝・日国交正常化担当大使が信頼する外務省の副局長クラスの当局者。李氏は私が4月28日に提出した9項目の質問項目に沿って言明した。

 李氏の発言内容はNHKで5月7日午前の「おはよう日本」などで、私の撮影した映像とともに放送された。共同通信、時事通信も報じ、マスコミ各社から問い合わせが殺到した。

 日本のマスコミは、1973年に失跡したとされる北海道出身の主婦Wさん=当時(32)=の子供2人の「拉致」事件に関する李氏のコメントに焦点を当てて報じた。日本で大きく報道されたWさんに関して朝鮮の当局者が発言したのは初めてだった。

 日本政府が朝鮮に容疑者の引き渡しを求めていることについて、李氏は「安倍政権は内閣に常設機関まで設け、拉致問題に狂奔している。彼らは国民の税金を使いながら手持ち無沙汰だ。それで考案したのが謀略だ」と言明した。また、「34年前のことだそうだが、これは当時全く証明されなかった問題だ」と指摘した。

 日本の警察庁が4月27日、国外移送目的誘拐などの疑いで逮捕状が出た「工作組織リーダー」の女性を国際手配したことに関して李氏は、「存在しない人に対しての国際手配は不可能だと思う。朝・日間には国交がないので、拘束される理由もない」と断言した。

 李氏は、警視庁公安部の総連関係先の捜索について、「問題を無理に総連と関連付けている。総連の施設を強制捜索し、総連の幹部の事情聴取を求めるまで至っている。総連はその事件と関連がない。こういうデマを流布させて総連のイメージダウンをはかり、総連を破防法適用団体に位置付けて抹殺しようとするのが安倍をはじめとする極右勢力の謀略による産物だということだ」と述べた。

日本の過去清算が先

 李氏は、4月27日にワシントン郊外で行われた日米首脳会談について、「安倍首相は訪米を通じて、米国をそそのかして、われわれへの制裁を強化することをはかったようだ。しかし、これについての世界各地のマスコミ評論は非常に冷淡だった」と述べた。

 また、「安倍政権は解決済みの『拉致』問題を持ち出している。しかし、同じ20世紀に起きた前代未聞の、特大型の人権蹂躙犯罪である日本軍『慰安婦』については、『すまない』という簡単な言葉だけでごまかそうとしている。これを指して、世界は日本人のことを最も破廉恥で厚顔無恥な人たちだと指摘している」と語った。

 李氏は核の放棄に向けてのプロセスについては、「朝鮮半島の非核化を実現したいというわれわれの立場と意思に変わりはない。資金凍結解除問題も、6者合意に基づいて行われている。資金凍結が解除され、送金がなされ、実効性が担保されれば、約束した行動に移る」と明言した。

 日本政府が4月に対朝鮮制裁を6カ月延長したことについて、「朝・日関係の悪化を持続させて、スムーズに進んでいる6者会談を破綻させようとする魂胆にしか見えない」と批判した。

 日本政府が求めている「拉致」事件の再調査について、「どんなことをやっても、どういうものであっても、それが朝・日関係の改善に役立つものにならなければならないということだ」と述べた。その前提として、「まず、日本の過去の清算が先行しなければならない」と強調した。

 「現在の朝・日関係は一言で言って、最悪だ。原因は何か。朝・日間には、平壌宣言というすばらしい合意文書がある。しかし、日本側は宣言に書かれたことに、系統的に違反している。朝・日関係改善に向けた日本政府の態度にすべてがかかっていると言える」

6者会談に日本不要

 李氏は「6者合意に日本も加わっている。日本が、自分が約束した合意について履行を拒否するなら、日本の参加は必要ない。われわれが6者会談で、日本にエネルギー支援など何の支援も求めたことはない。日本が朝鮮半島非核化のプロセスへの参加を拒否するなら、参加しなくても大丈夫だ。6者会談から日本がいなくなっても何も困らない。参加国が少ないほうが、スムーズに事が進むからだ」と述べた。

 米国は2006年の国別テロ報告書で、朝鮮を「テロ支援国」に引き続き指定したものの、2月の6者会談で、米国が指定解除に向け手続きを開始することで合意したことなどが明記された。また、ライス米国務長官は日米首脳会談の席上、日本人拉致問題の「解決」が「テロ支援国」指定解除の前提条件ではないと安倍首相に伝えたことが新聞報道で明らかになった。

 李氏は「朝米の協議は、05年の9.19共同声明、今年の2.13合意で決まった言葉対言葉、行動対行動の原則に基づいて進んでいる」と述べた。

 「拉致」を政治利用して首相になった安倍氏は、米国からも見放される運命なのだ。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2007.6.1]