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〈6者会談後の自信あふれる朝鮮を見た−下−〉 過去清算の回避、在日同胞弾圧に憤慨

日本の支援は不要と断言

 報道関係者や文化人の訪朝で現地案内をしてくれる対外文化連絡協会(対文協)の指導員たちの多くは、平壌外国語大学の卒業生だ。同大学では、今年4月に日本語学部がなくなり、民族学部日本学科になってしまった。定員も15人が7人になった。「日本の存在感はますます薄くなっている」と、ある当局者は語った。

 対文協の洪善玉副委員長(第11期最高人民会議代議員、朝鮮女性協会会長)が4月29日、歓迎の夕食会を開いてくれた。洪氏は朝鮮の日本軍「慰安婦」・強制連行被害者補償対策委員会の委員長も務めている。2000年12月、東京で開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」にも朝鮮代表団団長として参加した。

 洪氏は、「3月3日に朝鮮中央テレビで浅野先生に会えた。同胞が日比谷野外音楽堂で開いた在日朝鮮人への政治弾圧に抗議する大集会で、先生が日本国民を代表して連帯のあいさつをした映像が字幕付きで放送された」と語った。朝鮮中央テレビに私の顔がオンエアされたことを初めて知った。

 朝鮮は、日本との関係が悪化する中で06年9月、共同通信平壌支局の開設を認めた。その前に米通信社APTNの支局も認めている。共同通信の常駐記者はいないが、3人の現地スタッフ(朝鮮中央通信社員)がいる。

 「共同通信は公正で客観的な報道をしてくれている。高く評価する。先生が22年間勤務した報道機関だからすばらしい。石川聡社長は06年3月と10月に来た。2度目の訪朝をした06年10月、核実験があったが、共同通信はニュース、映像を平壌から発信できた」

 洪氏は、「日本は過去の清算を全く放棄して、拉致問題を政治利用するのに奔走している。安倍首相は『拉致』だけで総理大臣になったから、拉致を政治利用するしかない。安倍氏が、米議会が『慰安婦』問題で対日批判決議をしても、謝罪と補償はしないと断言したのは最悪だ。過去の反省をせず、(朝鮮による)拉致だけを騒ぐのは、日本以外では通用しない。過去の犯罪を隠せない。太陽を手で隠そうとしても無理だ」と強調した。

「慰安婦」の訴え

元「慰安婦」の金英淑さん

 元日本軍「慰安婦」、強制連行被害者にインタビューした。元「慰安婦」の金英淑ハルモニは2000年の国際女性戦犯法廷で証言した人。もう一人の朴永心さんは昨年死亡した。

 金さんは、1927年平安北道泰川郡生まれ。金さんは日本の兵士に初めて強かんされた時のことを詳しく話した。字にすることも躊躇するような内容だ。金さんは12歳だった。

 「あれから62年が経った。私は80歳を超えた。どうしていまだにわれわれ被害者たちに対してまともに謝罪と補償をしないのか。日本の総理が、わが国にわざわざ来て、私たちの総書記の前で謝罪し、補償すると約束までしたのに、どうして帰ってからはそれを全部覆すのか、と考えれば考えるほど、くやしくてならない。そしてどうして在日朝鮮人たちをあれだけいじめ、バッシングをするのか。米国でさえ認めているのに、補償を一番しなければならない日本は何をしているのか」

 「われわれは『慰安婦』の問題、強制連行の問題を解決するために、国際会議を何回もやって、あれだけ声を高くして呼びかけたのに、いまだに日本の国民はそれを知らない。補償はおろか事実を認めさえしない。私は何十回も話をしているけれど、日本では私のような『慰安婦』の問題は解決されていない。私が見るところ、日本は、私たちのような『慰安婦』のハルモニが早く死んでほしいと思っているのではないか」

 「あなたたちは日本で私たちの訴えをまともに伝えていないのではないか」という疑問に、私は返す言葉もなかった。

 今日本の政府と人民に言いたいことは何かと聞いたところ、私の目をじっと見て、「謝罪と補償を」とだけ答えた。

メーデーの大城山

平壌空港の売店

 4月30日夜、メーデースタジアムで「アリラン」公演を観賞した。1910年から現在までの朝鮮の歴史を描く。中学生が巨大なパネルで絵を描く。8月1日から9月10日にも開かれる。

 外国人観光客も多い。英国の旅行代理店が募集したツアーと一緒になった。世界各国から北京に集まり、「一週間の朝鮮旅行」を企画した。日米を除く世界の主要国から多数の観光客が来ている。

 英BBCワールドが4月30日、平壌から「アリラン」公演の模様などを収めリポートしていた。米国のテレビ局も2局入った。

 5月1日のメーデーは大城山遊園地での行事に参加した。メーデーの日は雨になることが多いと言われるが、今年は天候に恵まれた。政治的なイベントはほとんどなく、家族連れがゲームなどを楽しんでいた。外国人観光客も綱引きなどのゲームに参加し、観客から大きな拍手を浴びていた。

 ソウルで働くスウェーデン人の女性アンナ・エリクソンさんは、「一生に一度しかないと思ってツアーに参加した。赤旗もみないメーデーに驚いた。韓国の人たちとほとんど変わらない。ちょっとこちらのほうが礼儀正しいかなと感じた」と話した。

最新工場と電子図書館

金策工業総合大学の電子図書館(写真はいずれも筆者提供)

 4月29日、平壌の南にある大安親善ガラス工場を訪れた。中国の援助を受けて04年4月に着工、同年9月に完成。05年8月試運転、9月に正常生産を開始した。

 姜明哲・生産副技師長の案内で、近代的な設備を回り、全工程を見学できた。1日に3万3000u、270トンの板ガラス(住宅、事務所用)を生産。600人の労働者が3交代制で働いている。

 朝鮮が今、最も力を入れているのがIT。最新鋭のコンピュータを備えた金策工業総合大学の電子図書館を見た。朝鮮人民軍創建75周年を祝う4.25軍事パレードに参加した学生たちが軍服を着て解散式を行っていた。

 近代的な図書館には中国製のコンピュータが多数ある。外国語もコンピュータで学べる。地方の大学とネットで結んだ教室もある。日本の最新の書籍も含め外国の専門書がそろっている。すべて米アジア財団の寄贈図書だ。

 朝鮮革命博物館講師(日本語ガイド見習い)の金香美さん(23)は、「わが国は金正日総書記のもと、社会主義強盛大国の建設に邁進している。核保有国になり、誰も侵略できなくなった。日本の支援などいらない」と述べた。

 平壌外国語大学日本語科を卒業したばかりの金さんは拉致問題について、「解決済みではないですか。02年の朝・日平壌宣言のとき、解決されたと思っている。今は、日本が対朝鮮敵視政策の一環として、何でもない拉致問題を騒いでいると思う」と述べた。

 平壌空港のビルの前に露天のお土産店が2店出ていた。しゃれたデザインの品物が並んでいた。

 安倍政権によって、日朝関係は最悪の事態が続いているが、日本にも多くいる心ある人々の輪を広げ、在日朝鮮人と連帯して、強固な日朝関係の構築を目指したいと思う。次の訪朝も計画したい。(浅野健一、同志社大学教授)

[朝鮮新報 2007.6.6]