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米下院外交委 「慰安婦決議案」可決の意味は何か

 何日か前の6月26日、米下院外交委員会で注目されていた「慰安婦」問題に関する対日非難決議案が可決された。この決議案はたとえ下院本会議で可決されても法的拘束力を持つものではないにしても、その影響するところ極めて大であることは、日本政府が毎回ばく大な金を散じて阻止のためのロビー活動を展開してきた事実をみても解ることである。

 それにしても、この決議案は39対2の大差で可決されたという。

 2001年を皮切りに、過去4回提出されたというが、3回目のマイク・ホンダ議員が2005年に決議案を提出した時には共同提案者は15人であった。それが翌年9月、米外交委で可決されたエバンス議員提出の決議案は、表現をやわらげた故もあってか共同提案者は56人に増えていた。ところが、日本国首相の謝罪や、旧日本軍による「慰安婦」の人身売買が「なかった」とする主張を否定することを求めたこの決議案は7月中旬に下院本会議に上程されるというが、6月26日現在、賛同議員は149人で、まだ増えるらしい。

 つまり、前回までと全く様子が違うのである。予断をもってコトを推測するわけではないが、本会議に上程されても、この決議案は採択されるだろうとみられている。

 安倍首相を先頭にした日本政府の必死の妨害と採択回避の運動とそのもくろみは完全に破綻したのである。日本が保護者と頼み、「同盟国」と信頼する米国でなぜこのような「日本たたき」と見紛う現象が起こっているのであろうか。

 日本政府内、また識者と言われる人たちは、安倍首相の対応のまずさ、日本の対米外交力の乏しさ、そして昨年11月の米中間選挙での民主党の進出を指摘する声もあるが、はたしてそれだけが問題であろうか。より本質的な問題点は決議案そのものの内容に明白に出ている。各紙に決議案要旨が出ているので詳細はこれを見ていただくとして、私は次の諸点を問題点とみている。

 @安倍政権は過去の侵略戦争に対し、歴史的事実を認めようとしないし、歴史そのものを修正し、わい曲しようと図っている。

 A従軍「慰安婦」問題の本質、つまり、人類社会での普遍的な人権侵害、人権蹂躙問題であるだけでなく、日本の恥ずべき国家犯罪にして国際法違反の戦争犯罪であることの自覚がない。

 B以上2点の具体的発現としては、靖国神社遊就館の展示にみられる戦争の起因を米ルーズベルト大統領にあるとする論や、3月以降の安倍首相自身の「(資料による)軍や官憲の強制連行を示す記述は見当らなかった」として「狭義の強制性」否定発言や、業者に責任を転嫁した発言が世界中に流れ、米国の有力紙は拉致問題での熱心さと比較して「2枚舌」との痛烈な皮肉を浴びせられたりした。

 また安倍首相を支える政治家や右派言論人の「従軍慰安婦はなかった」大合唱や、決定的にはワシントン・ポスト紙への「広告」問題が決議案可決の背中を押したとも受け取られている。

 安倍首相は、自分の発言で米国などから逆な反応が出てきたので、「必ずしも発言が正しく冷静に伝わらない。事実と違う形で伝わっていく現状で非生産的な議論を拡散させるのはいかがなものか」(参院予算委員会、3月9日)と言って、問題の沈静化を図り、「河野談話」の通りとだんまりを決めこむつもりだった。4月の訪米の際もブッシュ大統領に謝罪し、ブッシュ大統領もそれを受け入れる形をとり、このことでソウルの朝鮮日報社説に「謝罪する相手が違う」と、問題錯誤ぶりをコキ下ろされたこともあった。そして、今度の決議案採択である。塩崎官房長官や安倍首相は、テレビで「外国の議会で行われたことで、コメントするつもりはない」などと述べている。採択阻止に必死に動き、効を奏さなくなるや、他人事のように言う。この卑劣さには呆れた。

 この問題で日本に求められているのは、歴史に真摯に向き合い、元「慰安婦」の方々に心からなる謝罪をし、補償し、その心が慰されるよう誠意をつくす手だてを示すべきである。でなければ、日本は歴史から手酷いシッペ返しを食らうことになるだけであろう。(琴秉洞、朝・日近代史研究家)

[朝鮮新報 2007.7.2]