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米議会が日本の過去を激しく非難 ラントス委員長 「事実に対する馬鹿げた主張」 鄭敬謨

「従軍慰安婦」決議に反発する安倍政権

 安倍晋三氏は拉致問題の先頭で旗を振ることによって国民の人気を獲得し、その国民的人気の浮力に乗って政界の頂点に立ちえた人物である。安部内閣が「拉致内閣」と呼ばれる所以であり、拉致問題の帰趨、つまりこの問題に由来する人気の浮力が続くか続かないかによって、安部政権の運命が左右されるであろうということについては、衆目の一致するところではあるまいか。

「慰安婦」問題を決議した米国下院外交委(中央がラントス委員長) [写真=聯合ニュース]

 「感情の錬金術」という言葉がある。これは高橋哲哉教授(東大)が著書「靖国問題」で使い始めた彼の造語であって、戦場に狩り出された夫や息子の死を嘆く遺族たちの悲哀を歓喜に転換させる錬金術的な措置が靖国神社であって、靖国と日本の軍国主義とは表裏一体であるというのが高橋教授の主張である。

 この摩訶不思議な「錬金術」が現代の軍国主義者・安倍晋三氏によって巧みに利用されたことは注目に値しよう。いかに日本人が過去の歴史について鈍感な国民であるとはいえ、並みの良識を持った人間であるとすれば、アジアの隣邦諸国に対し日本は加害者であったのではないか。いささかは忸怩たる気持ちを抱いていたはずだと思う。それが安倍氏の操る巧みな「感情の錬金術」を契機に、日本の一億二千万国民のすべてが横田めぐみの母親・さきえさんと同じ心境となり、いや我々日本人こそが被害者であったという新しい倫理的高地(モラル・グラウンド)に立つことができたのである。この心理的なカタルシスは日本人全体に国民的な快感と高揚感を与えたものであって、ここからほとばしり出る北朝鮮一国に対する敵愾心をテコとして、安倍総理は祖父・岸信介が安保闘争の渦中で失脚した1960年以来誰もなしえなかった離れ業−つまり平和憲法の撤廃、教育基本法の改訂、治安維持法の回復等を実現させる基盤を着々と築き上げることができたのである。げに安倍氏にとって、拉致問題とこれを明分とする北朝鮮に対する敵視政策こそは、願うもの叶わざるなくを可能なりしめる如意棒であった。

 この如意棒に思わざる打撃が加わり、ひび割れが生じてしまった。ひびを入れたのは「従軍慰安婦の問題に関して、日本政府に対し公式の謝罪を求める米下院外交委の決議案(6.26)である。

 もともと「慰安婦」問題は、安倍氏にとっては鬼門であって、故松井やより氏らが中心となって開いた日本軍性奴隷制を裁く「女性国際戦犯法廷」(2000年12月)に激怒し、これを放映しようとしたNHKに理不尽な圧力をかけ、サワリの部分を全て削除させた張本人が安部氏である。そればかりではない。「河野談話」(93年)が、国会で審議され、可決されようとしたとき、「退場」という手段で反対の意見を明らかにしたのも安倍氏である。

 ところが「慰安婦」問題が米下院において審議の対象となるや、安倍氏は態度を豹変させ、「河野談話を継承していく」とか、「慰安婦の方々が負った心の傷についてお詫びする」とか、心にもないことを口にしはじめたのであるが、その一方においては、いかにも未練がましいと言うべきか「慰安婦」たちに対し「狭義の意味において強制を強いた事実はない」と訳の分からない発言を繰り返している。

 この点をワシントン・ポストは衝いた。「アベの二枚舌」と題する社説(3月24日付)を掲げ、「拉致問題にあれほど熱心なアベ氏なら…、慰安婦問題についてももう少しは真面目に日本の犯した罪に対し、その責任を認めて然るべきではないか」と安倍氏の不誠実さをなじったのである。

 そうすると今度は贔屓の引き倒しというべきか、安倍総理を支える応援団の面々がワシントン・ポスト紙(6月14日付)上に「ザ・ファクト」と題した全面広告を出し、下院の決議案は「事実に対する意図的な歪曲」という反論を展開した。

 これに対しラントス外交委員長が「事実に対抗する馬鹿げた主張」だと反発し、決議案可決の呼び水になったという。

 塩崎官房長官はこの決議案があたかも日本とは無関係のものであるかのように「他国の議会が決めたことだからコメントすべきでない」と切り捨てる一方で、「日米関係は揺るぎのないものであり、全く変わらない」という所信を表明している。果たしてそうだろうか。

 去年の6月、小泉総理は退任を前にして訪米の旅行に出かけた。上下両院を含めた米国会の前で、大演説をぶち、五年間の在職を締めくくるに当たっての華やかな「男の花道」を飾るのが小泉氏の念願であったはずだ。しかし、下院のヘンリー・ハイド外交委員長の横槍で小泉氏の念願はかなえられなかった。小泉氏の靖国参拝が問題にされたのだ。小泉時代から安倍氏は「今の総理、その次の総理も靖国に行くべきだ」という持論を持ち続けてきた人物である。

 靖国その他の問題で隣国と対話すらできない日本は、米国にとっても役に立たない存在だという論は、米国内で広範に広がっている。靖国問題にいっさい触れることなく、就任早々安倍総理が、北京とソウルを訪れたのであるが、これで問題は解決済みだと安倍総理は考えているのだろうか。

 その一方で拉致問題にはお構いなしに北朝鮮と米国との対話はいま急ピッチで展開している。朝・日間の対話も同様に展開していくことを祈りつつ安倍総理のお手並みを拝見したいところだ。(評論家)

[朝鮮新報 2007.7.2]