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日本人観光ツアーに同行して かいま見た水害の凄さ

初めて会う日本人、「良い感じ」

 8月24日から30日まで、日本人ツアーに同行して朝鮮を訪れた。朝中国境の街、丹東から新義州を経て平壌に至る国際列車の旅に始まり、沙里院(黄海北道)、海州(黄海南道)、板門店、開城、平壌を6日間で回るというハードな旅だった。

「穀物の出来心配」

チュチェ思想塔の屋上から眺めた平壌市内。大同江は水かさが増し、泥水化していた(8月28日、筆者撮影)

 日本を発つ前、未曾有の水害により多くの人命が奪われ、甚大な物的被害が出たとのニュースが飛び込んできた。はたして列車は動くのか、ツアー自体が中止になるのでは、と心配したほどだ。

 だが、平壌に着くと拍子抜けするほど水害の「爪痕」はまったく見られなかった。新義州から平壌までの間も、2時間ほどの遅れはあったものの、車窓から見るかぎりではそれほどの被害は感じられない。しかし、朝鮮滞在3日目にして、水害の凄まじさを垣間見ることになった。

 26日、ツアー一行は沙里院から海州へと向かった。途中豪雨に見舞われた。その間10〜20分ぐらいだったろうか。それなのに、街中の道路が10センチほど浸水している。この前の水害の際には、8月7日から14日まで朝鮮各地で豪雨が続いたという。20分ほどの雨で10センチも浸水するのだから、あの豪雨が1週間も続いたら…。さぞや甚大な被害であったであろうことは十分に想像できた。

 その夜、海州のホテルでテレビを見ていると、各地での水害復旧作業の状況を伝える番組が流れてきた。連日放映されているらしく、この日は平壌にある万景台遊園地の復旧作業を伝えていた。それによると、水害当初は観覧車まで浸水したようだ。だが、今は復旧作業もだいぶ進んでいるようだった。

 黄海道一帯は穀倉地帯として知られているが、稲が横倒しになっている田んぼを随所で目撃したほか、刈り入れ前なのに稲を片付けている様子が見受けられた。収穫前に水害でだめになってしまったのだろう。「穀物の出来が心配だ」と地元の人も嘆いていた。

「朝鮮よく理解して」

 2003年6月に観光名所としてオープンした長寿山(黄海南道載寧郡)の女性ガイド(22)は、日本人に会うのは生まれて初めて。印象を聞いたところ、「とても良い感じ。朝鮮のことをよく理解してくれれば。そうすれば朝・日関係ももっとよくなる」と語っていた。

 彼女に限らず、今回の旅で市民同士の触れ合いは随所で見られた。

 例えば、新義州での荷物検査の際の出来事。ツアー一行の中に美女が一人いた。税関の職員は口々に「きれいだ」を連発。彼女見たさに用もないのにちょくちょく顔を出す始末。おかげで長時間に及ぶ荷物検査も和気あいあいとした雰囲気の中で行われた。

 税関職員らは7月の参議院選挙で自民党が惨敗したことなど日本の政局について熟知しており、「なぜ安倍首相はやめないのか」などと尋ねてきた。北南首脳対面の延期や6者会談、朝・日関係が日本でどう報道されているかにも関心を示していた。

 筆者が在日同胞だというと、「いろいろと苦労が多いでしょう」と、開口一番励ましてくれた。安倍政権発足後、総連施設に対する強制捜索や総連関係者および在日同胞に対する不当逮捕などが相次いでいることに不快感を示していた。普段は在日同胞とあまり接触することのない新義州の税関や国際旅行社の職員ですら同胞社会の状況を熟知していることには驚いた。

 それは板門店に勤務する朝鮮人民軍兵士も同じだった。

 日本人ツアー一行を案内した崔成一中佐(36)は、参議院選挙での自民党敗北の原因について、個人的意見だと断りながら、「安倍首相の政治が日本人に受け入れられていないのでは」と語っていた。そのうえで、日本は敗戦国として他国を侵略した謝罪と補償をすべきで、それをしていないから世界の非難を浴びていると主張。先の米下院での「従軍慰安婦決議」を想起させながら「同盟国である米国からも糾弾されている」と述べていたのが印象的だった。

 また、これまで多くの日本人がここを訪れ、そのつど「朝鮮の現実をきちんと知るべきだ」と言っては帰っていったが、はたして朝鮮の現実が日本にきちんと伝えられているのかどうかと疑問を呈しながら、ぜひ正確な情報を伝えてほしい、とツアー一行に促していた。

リピーターには最適?

 今回、日本人ツアーとしては珍しく、沙里院、海州といった地方都市を訪れた。黄海北道は観光地としての開発に力を入れているらしく、見所も多い。正方山の成仏寺(高麗時代に建てられた寺)、瑞興郡にある泛雁養魚場、鳳山郡の恩情協同農場内にあるヤギ牧場、沙里院市内の民俗村などを訪れた。ツアー客に評判が良かったのは、風光明媚な泛雁養魚場、ヤギ牧場だった。

 海州郊外には、朝鮮王朝時代に作られた石譚九曲(黄海南道碧城郡にある名勝地)や映画「春香伝」のロケ地にもなったと言われる芙蓉堂(16世紀初めに立てられた楼。2003年に復元)などがある。朝鮮で古都といえば開城だけだと思っていたが、黄海道一帯でも古都の名残が感じられた。朝鮮観光リピーターにとっては、沙里院、海州、開城、板門店をめぐる西海岸ツアーも悪くない。(文聖希、フリージャーナリスト)

[朝鮮新報 2007.9.28]