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ブルース・カミングス教授の一文を読んで 河在龍

「変わらない朝鮮」 「変わらざるをえない米国」

 最近、おもしろい記事を目にした。今月のフランス「ル・モンド・ディプロマティック」誌に掲載されたブルース・カミングス米シカゴ大学教授(注参照)の寄稿文で、見出しに「『悪の枢軸』との小さな和解−また付き合うことになった北朝鮮」とあり、ブッシュ政権の対北政策について論じたものである。

水面下の朝米交渉

 記事によると著者は、先日の北南首脳会談を取り上げ、任期満了に伴う南の大統領が自らの後継者に支持拡大のチャンスを与えるためにとった訪北であろうとしながら、朝鮮半島が東北アジア経済発展のターニングプレートであり、彼が「北の経済の新時代」を次の世代に引き継がせようとしたと評している。

 また、今回の首脳会談がブッシュ政権と北の政権との「意外なデタント」の状況下において行われたことは、06年7月、米国の独立記念日に「テポドン2」と他の中距離ミサイルを「祝砲」として発射し、同年10月には北による核実験のため朝米間に極度の緊張が生じたことを考えれば、全く理解しがたいことであると述べている。

 そればかりか、北といっさいの交渉も取引もしないとしてきたブッシュ政権が、ヒル氏をして金桂官氏との水面下での直接交渉を行い、北の核施設の無能力化とともにテロ支援国家指定の解除、ひいては両国の国交正常化まで見据えた交渉段階に入ったことについて驚きを隠しきれないと述べている。

米政権内の対立

 著者はまた、クリントン政権が北の核計画をストップさせるプランの合意を自政権に残してくれたにもかかわらず、「ABC政策」で前政権を完全否定し、北との対決姿勢を前面に押し出したブッシュ政権が、皮肉にも北の核能力を一段と高める役割を果たしたとしながら、ワシントンの政策決定プロセスは皆目見当がつかないとしている。

 05年9月19日、朝鮮半島の非核化に通じる朝米間の合意がなされた3日後に発生した「バンコ・デルタ・アジア」問題は、その顕著な例であるという。

 著者によれば、米財務省は北の不法な金融取引については94年にただ一度だけ、それも250万ドルの偽札の件に関してだけ公表しており、実際により大きな関心を向けていたのは合法的な金の売買にあったという。

 唐突に生じた「バンコ・デルタ・アジア」問題が、ワシントン−平壌の関係正常化を目前にした政権内の激しい対立によるものであったと推測されると指摘している。なぜなら、その後この問題が米政府自らの迅速な対応によって、北に対するいかなる制裁もなしに急速に消滅したことからも理解できると述べている。

翻弄される米国

 北の核問題に関する米政府の劇的な変化、ライス国務長官の訪朝、朝米首脳のトップ会談までも噂される昨今、ブッシュ政権の急激な変化の要因について著者は、06年の中間選挙の敗北、ブッシュ大統領の内外政策の失敗による求心力の低下などを指摘しながらも、現時点での米国の最大の関心事がイランの核問題に移ったことにあるからではないかと述べている。

 北との交渉がうまくいけば、テヘランの問題に全力を尽くすことができるとブッシュ政権が判断したのであれば、北の問題は元の鞘に収めるか、忘れてしまうにこしたことはないと書いている。記事を読みながら、いつも先に危険を創り出し、そのために自らが翻弄され、最後にその禍根を自らの手で始末せざるをえない状況に陥る米国の姿を思い浮かべ、ふと笑いを禁じえなかった。

 一方、どのようなケースにも不動の原則に則って、一貫した政策で事に臨む朝鮮の姿勢に自然とうなずく。著者いわく、「いつも変わらない北、いつも変わらざるをえない米国」、まったくその通りである。

核実験の意味

 他にも興味ある内容を二、三紹介するとしよう。

 米CIAも認めているように、数年前から朝鮮が核を保有しているということは半ば公認の事実であったのに、朝鮮はなぜ核実験を行って名実ともに世界にそれを公表したのか?

 著者によると、一つは02年9月にブッシュ大統領が北を「悪の枢軸」と呼び、その数カ月後に米国はイラクに侵攻した。北の指導者たちは考えたであろう、もしフセインが本当に核兵器を持っていたなら、米国はイラクを攻撃しただろうか? 北は、本当に核の抑止力を持っていることを証明する必要があったものと思われると指摘している。

 また核実験の強行は、中国に対するメッセージではなかったかと著者は指摘している。

 06年7月、北のミサイル発射に対して中国は9月に石油の輸出を停止して圧力を加えていた。核実験は、いかなる圧力にも屈しないという意志、何の成果も期待できない6者協議には断固参加しないという意志の表明ではなかったかと指摘する。

 実際、中国への核実験実施の通告がわずか30分前で、中国は非常に憤慨していたと、どこかの紙面で読んだ記憶がある。米帝は「百年来の宿敵」であるが、千年におよぶ漢民族の圧迫に辛酸をなめてきた高句麗の末裔からすれば、さもありなんというところであろうか。

東北アジアの未来

 最後に著者は、金大中前大統領が北の核廃絶と引き換えに朝米関係の正常化に応えるようクリントン政権を説得した際、彼は、北は駐韓米軍の撤退を要求しないだろう、なぜなら中国と日本の脅威は米国のみならず、北にとってもまた脅威であるからと考えていたと指摘している。

 そして、米国が1945年から東北アジアに構築してきた国際システムにおける新しい安全保障の枠組みに、北は同意するであろうとしている。

 その新しい枠組みによって、米国は北の中立化という成果を達成し、ひいては友人として、また同盟国として北と共存できるかもしれない、なぜなら北は中国とロシアに対する牽制、また必要に応じて日本に対するブレーキ役としても機能しうるからであると言う。

 そして、北が冷戦期に北京とモスクワに対して取ったしたたかな振る舞いを、今度は東北アジア全体において取りうるだろう。このことがブッシュ氏の心を捉えるかどうかはわらないが、もしそうなれば彼は、北の指導者とともに肩を並べて、この地域の「平和の構築者」になりうるであろうと述べている。

 カミングス教授の展望が楽観的すぎるにしても、政治とはかくも奇なりと思わずにはいられない。(朝鮮大学校教授)

【注】ブルース・カミングス教授 1943年生まれ、専門は朝鮮半島を中心とした東アジア政治。主著に「朝鮮戦争の起源−解放と南北分断体制の出現、1945−1947(1−2)」(鄭敬謨訳)、「北朝鮮とアメリカー確執の半世紀」など多数。

[朝鮮新報 2007.10.24]