「朝鮮政策転換の時」−講演と討論会− 発言要旨 |
10月25日に行われた日朝国交促進国民協会主催の講演と討論会での発言要旨は次のとおり。(文責・編集部) 和田春樹 東京大学名誉教授 安倍政権から福田政権への変化の決定的な部分は対朝鮮政策の転換だ。 安倍政権の時代錯誤で非現実的な路線から、日朝国交正常化の早期実現を目指すなかで日朝間の諸問題に誠実に取り組むという平壌宣言の考え方に変わるべきだ。 また、それを確実なものにするためには世論を変化させることも必要だ。拉致被害者全員生存、全員返還という安倍路線は行き詰っている。 生存者がいれば全員帰国、安否不明者に関してはさらに誠実に調査を進めるという要求に取り替えるべきではないか。 横田めぐみさんの遺骨問題に関しても、日本側の鑑定に対する疑問が存在する。 遺骨を返さなかったり再調査に応じなければ、日本の鑑定の正しさを国際的に主張することが困難になる。 日本は拉致問題を2国間で解決していくと腹を決めるべきだ。核無能力化の段階に進めば重油提供にも当然加わらなければならない。 人道支援も交渉とは関係させずに行うのが当然だろう。 福田内閣は、「拉致で進展がないので制裁を延長する」と発表したが、制裁措置はミサイル発射実験と核実験に対するもので、拉致に対する措置ではない。ミサイル実験は停止されており、核問題に関しては6者で進展がある。 制裁を部分的、段階的に解除していくという方向に進むべきだ。 また日本側が過去の清算について誠意を見せるのであれば、個人補償を前倒しで実施するという道も考えられるべきだ。 在日朝鮮人に対する弾圧の問題でも、国内に対立を作り外交に利用するという倒錯したやり方はいけない。 小此木政夫 慶応大学教授 昨年の核実験以降、米国はそれまでの消極関与や威嚇といった路線から積極的な関与政策に転換した。 6者と米朝が進展し南北も進むと、日朝が影響を受けないはずがない。6者と南北による相乗効果が最も作用するのが日朝関係だろう。 小泉外交の特徴は、国交正常化を正面に掲げて、そのプロセスの中で拉致問題を解決しようとする「出口論」だった。一方の安倍外交は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」という「入口論」だ。 日本の独自制裁路線は、6者会談という国際協調路線に抵触せざるをえない。拉致問題解決路線と非核化路線が両立しないような状況が現出している。 福田外交は、大筋では平壌宣言のラインに乗っている。なぜ制裁を解除できないのかと言えば、「安倍外交の遺産」が現在の福田外交を拘束しているからだ。しかし国際協調に逆行するような日朝交渉は不可能だろう。 6者と南北の相乗効果によって日朝にも大きなチャンスが到来している。 小牧輝夫 国士舘大学教授 2002年あたりから国際協調の枠組みで制裁措置がとられている。いわゆる「キャッチオール」制度によって日朝の貿易関係は縮小し始めた。制裁は昨年からさらに強化され、日本独自の制裁という形をとっている。 北朝鮮船舶の全面入港禁止、輸入全面禁止、北朝鮮国籍の人物の入国原則禁止という3つの措置は、日朝関係を大きく制限するものだ。 政府は「拉致問題の解決に何らかの効果を期待する」と説明しているが、本来は「核問題、大量破壊兵器の開発阻止」という流れの中でとられてきたものだ。6者会談の進展は日本の制裁の効果によるものではない。 一方、日本側は国交正常化における経済協力に関して、「北にとってメリットがある」という判断で進めてきたが、今やその効果は薄いものになっている。「北は経済的に困難なので日本が何をやっても必ず応じるはずだ」という安易な考えは捨てるべきだ。現状では本格的な経済支援は難しいが、人道支援は国際的基準からいってもやるべきだろう。 平岩俊司 静岡県立大学教授 福田総理自身の朝鮮半島に対するイメージは、安倍前総理とは違ったものだろうが、それが今のところ政策面に反映されていない。安倍政権時に引いた大きな基本線を修正するためには、それなりの大きなきっかけが必要だ。 米朝関係が大きく変化した結果、日本の圧力路線も破たんした。政権の変わり目は外交にとって大きなチャンスであることは間違いない。安倍政権も政策をまったく変えなかったわけではなく、最後の方で過去清算の問題を一生懸命やるという発言もあった。 北は安倍政権の変化をあまり信用しなかったようだが、安倍さんが言うのと福田さんが言うのとでは北の受け止め方も違うのではないか。 北が国際社会との約束を遵守し、情勢は目に見えて進展している。日本政府も北の姿勢を肯定的に評価し、自身の姿勢を変化させていく必要がある。核問題の進展を日本が邪魔するような状況になると、米、中、韓などからも声が挙がり始める。日本は拉致問題について明確なラインを決めねばならない。 高崎宗司 津田塾大学教授 メディアの姿勢という面で、帰国事業を取り上げた先日の「NHKスペシャル」について話したい。 制作者側がもっぱら「北側がこの問題でどうしたか」という関心で番組を作っていて、日本人の考えるべきことを提示していないことが印象的だった。貧弱な特集だったように思う。 この問題を考えるにあたって、少なくとも日本政府がどのように提起してどのように対応して現在どのように考えているのかということを番組の主軸にするべきだった。 日本側の問題点いついてはほとんど触れないで、もっぱら北朝鮮側に責任を押し付けて、「ひどかった」というのは感心しない。このような番組を作っているかぎりは、日本の世論も変わりにくいのではないか。メディアの責任は大きい。 現在の日本は、本当の意味で世論があるのかないのかわからない状況にある。 今後、国交正常化交渉を進めていくためには、世論形成が大事だ。 われわれに何ができるのか考えていきたい。 姜尚中 東京大学教授 安倍政権の退陣は日本版ネオコンの退場だ。 歴史をめぐる問題が90年代後半から日本で大きな外交問題に発展し、最近の沖縄の集団自決をめぐる改ざん問題にまで至った。 安倍内閣を作った力を見るとき、そこには歴史問題をめぐる95年以降の流れが存在した。それが現在の拉致問題とリンクしていることに問題の深さがある。 個人的には、核問題より拉致問題のほうが難しいと感じる。 国民感情も含めて非常にセンシティブな問題になってしまった。この問題について物申す人々は殺してもいいという雰囲気にまでなった。ここまでヒートアップしたことは、不幸なことだと言わざるをえない。 対北朝鮮問題は小泉訪朝以来、日本の内政問題になってしまった。 日本外交は機能不全に陥った。国際社会で全てのプレイヤーが利益を得るというプラスサムゲームを展開するために外交がどうあるべきなのかという戦略や戦術、外交的な手腕が必要とされている。 日本が日朝関係を通じて南北やそれをとりまく東北アジアの地域的な変化に対して今後どのように取り組んでいくのか。大きな外交的枠組みの中で拉致問題を解決しなければならない。 日本の政局が不安定な時に、日朝関係がそれをいい方向に覆すテコになると考えるのか、前政権の遺産を引き継いで安全運転したほうがいいと考えるのか。福田政権が踏み込んだ行動を起こせるかがポイントだ。 そのためには、拉致問題の解決とは何を意味するのかを北側に伝えなければならない。拉致問題の政治、外交的な解決の意味がしっかりと相手側に伝われば、そこで何らかの行動を起こせる。 [朝鮮新報 2007.10.31] |