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〈熊本朝鮮会館減免税訴訟〉 最高裁の職務放棄 北野弘久

 戦後日本では、約40年間にわたって朝鮮総連の施設に対する固定資産税等が免税扱いとされてきた。同施設が在外公館に準ずる施設として公益性があるとされたわけである。それを石原慎太郎東京都知事がその北朝鮮に対する政治的偏見から打ち切った。つまり約40年間の免税扱いを止めて課税処分を行った。私は、東京都のこの打ち切りは「法の支配」「法の論理」を無視した恥ずべき行為と考えている。

 このような動きにもかかわらず、熊本市長は熊本朝鮮会館に対しては熊本市税条例50条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」、熊本市税条例施行規則6条の「公民館類似施設に該当する公共施設」に該当するとして免税扱いを続けた。熊本地裁は、この熊本市長の免税扱いを支持した。

 ところが、その控訴審福岡高裁は、「同施設はもっぱら北朝鮮の国益のため、在日朝鮮人の私的利益のための活動しか行っておらず日本社会一般の人々の利益になるような活動を行っていないため」免税とする扱いは適当でないとした。

 在日朝鮮人も日本社会の構成メンバーであり、熊本の彼らも熊本の住民である。彼らも納税義務を果たしている。熊本朝鮮会館が在外公館に準ずる施設として在日朝鮮人の人権を擁護するための活動を行うのは当然である。同館は、現に民族教育、日本との文化交流等の活動を行っている。これらはまさしく在外公館的活動であって、それ自体、高度の公益性を有する。福岡高裁判決は、司法裁判所の「判決」に値しないものであった。私は、法律学者としてのみならず、日本人として恥ずべき判決であると考えていた。

 しかるに、07年11月30日に、最高裁は何の審理もしないで、「本件上告理由は事実誤認又は単なる法令違反」であって民訟法312条の上告理由に該当しないとして棄却した。同条は憲法違反を上告理由としている。同条の上告理由に厳密に該当しない場合であっても、民訴法318条によって、原判決(福岡高裁判決)に最高裁判例違反その他「法令の解釈に関する重要な事項を含む」ものと認められるときには、最高裁は上告を受理することができることになっている。今回の最高裁はこの面からも受理しないとした。

 本件は、日本国憲法の本来的租税条例主義(憲法92、94、30、84条)違反および重要な法令解釈に関するものであることは明白である。最高裁が職務放棄をしたと言わねばならない。

 「司法改革」という大義名分のもとに行われた日本の最近の司法裁判の実態は、実質的には1審、控訴審だけの2審制になっている事実が、今回の最高裁決定によっても証明された。怒りと悲しみを禁じえない。(日本大学法学部名誉教授・法学博士)

[朝鮮新報 2007.12.12]