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〈本の紹介〉 朝鮮通信使をよみなおす 「鎖国」史観を越えて

正当な評価への一里塚

 かつて朝貢使とわい曲された朝鮮通信使が、今は平和の使節、文化の使節と言われている。名誉回復とも言える。しかし、江戸日本における朝鮮通信使の歴史上の意味は、ようやく語り始められたのにすぎない。やっと「一里塚」にある。高校の日本史教科書の記述を調べてみても、江戸時代の一コマのエピソード扱いである。

 朝鮮通信使に関して、数多くの研究がなされ、成果も少なくないが、江戸日本の通信使との交流が発掘される一方で、江戸日本史の本流の記述には関わりのない傍系の史実としてしか語られていない、と私は評価している。

 本書は「一里塚」にたどり着いた朝鮮通信使研究の成果をパノラマのようにまとめ上げ、読者に見せてくれる。格好の通信使研究入門ナビゲーターでもある。

 その第一は、通信使を豊臣秀吉の朝鮮侵略の教訓としての不戦という視点から、歴史的経緯を押さえることから論じていることである。

 第二は、通信使を国と国との外交関係を正面に据えて、両国の関係の深さを掘り出していることである。本書が他の多くの研究成果を統括し、「朝鮮通信使を読み直す」地位を占めた理由もここにある。朝鮮という通信国との関係によって、徳川政権の国際的認知と権威の確立、また政治、経済、文化の全面的な発展における両国の密接な関係などを解明することによって、通信使の時代の歴史の姿を評価する可能性を与えている。

 第三は、通信使と江戸日本の交流の大きさ、広さを総合整理している。

 第一章「朝鮮通信使を迎えた日本人」で人物交流をまとめている。

 徳川家康から、代々の将軍たちとの国書の交換と相互の信頼の情の交流。江戸日本の当代一流の政治家、学者、医学者、画家との交流は、教科書にも登場し、日本国民がよく知る人々が、実は朝鮮を理解し、敬意をもっていたことをわからせてくれる。学校の授業でこれらの人物交流が教えられるならば、歴史認識の問題は大きな転換を迎えるであろう。しかし、「日本の歴史」(山川出版社)の記述には、「近世に16名の外国人を登場させているにもかかわらず、朝鮮の人物の記述はない」。

 第三章「地域文化と朝鮮通信使」では、通信使の残した文化交流の広がりで見せてくれる多くの文化遺産、重要文化財、無形文化財等々は、まさに通信使が江戸日本の一大交流であったことを示している。

 第四は、朝鮮通信使関係の文献と索引を読者に示し、研究者及び入門者にナビゲーターを提供している。

 以上のように、本書は「鎖国」史観を超ええて「対等、互恵、不戦」の朝鮮と江戸日本の関係史を新たに開拓しようとしている。それは、「江戸日本史の読み直し」によって結実するであろう。「日本史を読めば、文脈の中で自然に朝鮮通信使のわかる」ような「日本史」の登場が通信使研究の彼方にあると評者は考える。(仲尾宏著、明石書店、TEL 03・5818・1171、3800円+税)(金宗鎮、社協東海支部会長)

[朝鮮新報 2007.1.13]