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春の消息

 村人たちはひとしきりすったもんだした
 春は足を痛めたとか
 春は危篤だとか

 目が丸くなるような噂では
 春は遠い海辺に上陸したばかりで
 椿の山裾でほんの少し休んでいるという
 話もあった

 けれども春は殴り殺されたという話もあった
 狂った悪漢に棍棒で殴られ
 血を流して倒れたと……

 村人たちはひとしきりすったもんだした
 春は自殺したとか
 春はとうに葬式を済ませたとか

 けれども目が丸くなるような新たな噂では
 春は裏山の岩の下に、村の入り口の小川あたりに
 それから何某の家の垣根の下にも
 知らぬ間に来ては幾晩か隠れ
 身支度をしているところだという
 話もあった

 (「創作と批評」 1970春号)

 シン・ドンヨプ(1930−1969)

 忠清南道扶餘に生まれる。激動の時代を生き、「現実参与」の詩で証言した60年代を代表する詩人。肺ガンのためわずか37歳で急逝。代表作に「殻は去れ」「誰が空を見たというのか」、長編叙事詩「錦江」など。待ちこがれる私たちの春は、今どのあたりで身支度をしているのだろうか。

 (選訳、康明淑)

[朝鮮新報 2007.1.23]