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東アジアSTS国際会議に参加して 科学技術と社会の関係を追求

大量破壊兵器、地球温暖化、公害…

参加者たちと神戸大で記念撮影

 11〜14日、神戸大100周年記念館および阪大中ノ島センターで開催された第7回東アジアSTS国際会議に参加した。STSとは「科学技術社会論」の略で、文字通り科学技術と社会の関係を追求する学問分野である。科学技術は人々の生活を豊かにしたが、反面、大量破壊兵器や地球温暖化、公害などその弊害も深刻である。このような問題をどのように捉え、克服すべきかを提言する学問分野がSTSであり、近年、そこに高い関心が集まっているのは当然のことといえる。

 むろん、それに尽きるものではなく、科学と産業さらには宗教、芸術との関係、市民の科学コミュニケーションや科学運動、科学技術とジェンダーなどもSTSの対象である。ゆえに、当初からSTSの専門家が存在したのではなく、科学史、科学哲学、科学政策、科学教育などの研究者が議論を重ねるなかで専門分野として確立し、研究者も育っていったのである。とくに、1990年代以降に世界的な潮流となっていったが、それを反映するように東アジアでも2000年北京で第1回会議が開催され、今回、7回目を迎えた。

 今回は、中国、台湾、韓国からの30人を含む約70人の参加者があり、会議というよりも学会形式で多様な主題による研究発表が行われた。それらを詳しく紹介することは到底できないが、個人的に印象に残ったのは、去年のソウル大・黄教授事件に関する韓国STS学会・会長である金煥錫国民大教授の報告である。

左から李教授、洪教授、筆者、金教授

 実は、この問題と関連して2002年にやはり神戸で開催された第3回会議で、当時、韓国科学史学会会長であった李成奎仁荷大教授がヒトES細胞を研究対象とした場合の生命倫理問題を取り扱い、その懸念を表明されていた。ところが、今回の黄教授事件はそれを超えて論文ねつ造という最悪の事件にまで発展した。金教授は事件が個人的なものではなく、この研究を取り巻く政府、学会、マスコミさらには市民に至るまでさまざまな要素が複雑に絡み合った様相を分析し、その教訓を語ったのである。

 そのほかについても、やはり南朝鮮の事例に関する研究に関心が向くが、ソウル大・洪性旭教授はすべての学生の成績、健康、家族、信仰など入力したデータベース「韓国教育行政情報システム」の問題点を、漢陽大・李尚郁教授はナノ・テクノロジーがどのような文化的、政治的土台の上に推進されてきたのかについて発表を行った。

 さて、会議に参加しながら、東アジア全体を網羅する学会設立の気運が高まっていることを強く感じた。すでに、2006年から台湾新竹大の傅大為教授が編集長となって「東アジアSTSジャーナル」が刊行されており、いずれ学会の発足に至るだろう。残念ながら、これまで朝鮮の研究者の参加は実現していない。実は、筆者がこの会議に招請される意味はそこにあるのだが、何とか学術交流に役に立てることができないか、とあらためて思った次第である。

 最後に、余談を一つ。

 去年、朝大創立50周年記念祝賀会が京王プラザホテルで開催された時、今会議の神戸大実行委員長を務められた塚原東吾助教授も駆けつけてくれた。その際、朝大名物男としてその名を馳せた、泣く子も笑うM先輩と懇談する機会があり、次には先輩が神戸で一席設けるということになった。そこで、今回、ソウルからの参加者12人との会食をセットしてもらったのだが、場所がなんと神戸ポートピアホテルの特別室である。これにはうれしさを通り越して恐縮してしまったが、「さすがに朝大ですね」とは塚原助教授の言葉である。(任正爀、朝鮮大学校理工学部教授、科協中央研究部長)

[朝鮮新報 2007.1.29]