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新春時事公演「新年の鐘」で朗読した詩・二通の手紙

 新春時事公演「新年の鐘」(1月22日、練馬文化センター)には、同胞芸術家とともに日本、南朝鮮の芸術家、文化人も駆けつけ、厳しい情勢の中でも、ともに手を取り合い友好の鐘、闘いの鐘を打ち鳴らそうと熱く訴えた。

 現在、神奈川日朝婦人懇談会代表・かながわ朝鮮問題研究ネットワーク共同代表・神奈川朝鮮学園を支える会副代表・朝鮮女性と連帯する日本婦人連絡会世話人である廣瀬禮子氏が、当日朗読した作品を紹介する。

舞台で自作詩を朗読する作者

 拝啓 内閣総理大臣 安倍晋三さま
 吹きつける一月の風は どれだけ厳しいかご存じでしょうか
 古来日本人は一月を睦月と呼びならわし
 人々が集い 行き来し 心を通わせて睦みあう月としていました

 懐かしい祖国に船で往来し 一族や友人 知るべどちが睦みあって
 再び 生活の基盤を築いた日本に帰ってくる
 それは睦月ならずとも 心和み癒されること
 若者は祖国を知って 心をつなぎ 根をおろす
 民族のきずなを確かめる太網でもありました

 かつて朝鮮という国籍も 言葉も失って 来日を余儀なくされ 働き続け
 戦後は突然日本国籍を剥奪され 仕事を捜し 仕事をつくり
 生きるためのあらゆる努力を尽くし 今日を迎えた在日朝鮮人に
 「船をとめる」痛打を またもや あなたは浴びせました

 総理 あなたは歴史を継いで担うひと
 総理 あなたは日本の国土と住民の安全の保障をはかるべきひと
 東アジアの安全と 国際社会の人権保障をはかるべきひと

 戦後すでに六十余年 日朝国交樹立はまだ成らず
 拉致 核実験は 在日のとがではないはず
 人道的行事に入国を拒否しないで……民族教育を保障して……
 軍事緊張を増す法はつくらないで……制裁より協議をすすめて……
 強制捜索などの政治弾圧はしないで……
 私たちは数々の要請と抗議を送り続けました

 総理 あなたは国連人権委員会の理事国の日本の総理
 在日朝鮮人を敵視する政策で世論をつくり テコとして
 「戦争のできる国」づくりへの急進は止めてください
 近代のアジア史の一粒 在日の一人ひとりの辿った苦渋の歴史のわだちを
 総理 人間としての総理は心ゆさぶられませんか

 総理 抗議や要請は数の処理として あなたは読まれないでしょう
 けれども 要請のすじとともに あなたの心にも訴え続けます
 日朝の国交が樹立し 交流が密になる日まで
 民族教育 無年金者施策 戦後清算にかかわる数々の懸案が成り
 民族としてのマイノリテイ 競争社会の切り捨てでなく 人権が守られる日まで
 一月も 二月も 人の睦みあえる 風やさしい日になるまで
 ひと 誰しも 人間が大事にされる「美しい国」と認める日まで
 総理 抗議と要請を 私たちは送り続けます

 在日朝鮮女性の友 スニャンさん
 お元気ですか オモニの具合はいかがですか
 九十二歳になるオモニが あなたに引き取られ
 遠慮のない母娘のやり取りのなかで
 日一日と言葉が確かになり、記憶がよみがえり、
 笑顔が増えていったとのこと……よかったですね

 けれども あなたは避けている
 父が強制連行された炭坑で むごいまでに働かされ、
 逃亡を防ぐため母と姉の家族が呼び寄せられ、
 海峡を渡ってきた一家の一番辛かったあの時代を語ることを

 共和国の拉致、核実験で回りの人々の目が冷たくなって
 オモニの孫たちが、仲のよかった近所の子どもや家々から遠ざけられたことを

 在日の子どもや自分に責任がないとはいえ、
 祖国の置かれた立場を少しでも理解してもらおうと語りかけても
 イルボンは聞く耳をもたず テレビは異様に暗い祖国を流し続けていることを

 在日チョソン・ヨーソンの友 スニャンさん
 あなたが 心に血の涙を流しているとき
 イルボンの私もまた 傷の痛みを抑えながら何本電話をしたでしょう
 その傷は加害の国民である 痛み 同じアジア人として人権被害に怒り苦しむ痛み
 同じ人間として理不尽に対する抑えがたい思いから
 幾たびも 幾たびも 抗議や要請を書き続け 歴史を引き 語りかけました

 今 静かに思います
 私たちは今 逆巻く波濤のなかにいて
 未来の平和へ 願いの「タリ」を架けているのだと
 私たちの 叫びは きっと拡がり 継がれてゆき
 アジアの未来に まるで鐘の響きのように こだましていくでしょう

 私だけではないのです
 大勢のイルボンの 理不尽はいや 人権を 守ろうと叫ぶ声が
 鐘の音に和しているのが聞こえるでしょう

 スニャンさん
 また 近いうちにお会いしましょう
 あなたも オモニも かぜをひかないよう気をつけて お元気で(廣瀬禮子)

[朝鮮新報 2007.2.5]