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〈みんなの健康Q&A〉 在宅医療と感染症−気をつけること

 Q:高齢化社会が進むのと並行して身体的障害があっても自宅あるいは施設で療養という人が増えています。

 A:医療水準が向上したおかげで、重い脳卒中や心臓病になっても救命されるのはいいのですが、そのまま慢性化して後遺症のため日常生活に支障を持ったまま退院せざるをえないという例が少なくありません。また一方で、高齢者で全身状態が極端に悪い場合でも、家族が在宅で看取りたいとの意思表示をすることもあります。

 Q:一口に在宅医療といってもさまざまな問題を抱えていると思います。在宅医療においては寝たきり、あるいはそれに近いお年寄りが多いと思いますが、診療上いちばん問題となることは何ですか。

 A:感染症対策がまずもって重要です。細菌、ウイルスあるいは真菌類が体内に入り込んで、さまざまな症状を引き起こし、患者の体力を消耗させ、時には致命的な状況をもたらすこともあります。中でも最も頻度が高くてしかもおそろしいのは肺炎です。肺炎は日本人の死因別死亡率の第4位で、肺炎で死亡する患者の92%は65歳以上の高齢者であり、高齢者施設や在宅医療ではしょっちゅうみられる感染症です。また、高齢者の肺炎の死亡率は20〜40%と高率であり、とりわけ在宅高齢者の肺炎は発見が遅れることが多いこともあって重症化しやすく、しばしば死にいたる疾患となります。次いで、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症、腸炎がよくみられます。また、持続点滴による栄養などの侵襲的医療処置に伴う感染症も少なくありません。

 Q:なぜ感染症にかかりやすいのですか。

 A:在宅患者の場合、どうしても栄養状態が不安定になりがちです。いろいろ理由はありますが、その30〜40%が低栄養状態にあると推測されており、免疫能の低下から感染に対して弱くなります。体の自由が利きにくい、あるいは意思疎通がうまくできない人では重症化するまで症状がはっきりしないので、病気の発見が遅れがちです。さらに、糖尿病、ガン、心疾患などの基礎疾患を有している方が多いのでなおさらです。

 Q:感染予防について教えてください。

 A:まず肺炎ですが、その本態はほとんどが誤嚥によるものです。これは口内の食物残渣や唾液などをうまく咀嚼して飲み込めず、誤ってのどから肺に入れてしまうことをいいます。脳卒中後遺症や老齢のためにこういった機能障害がよくみられます。また、明らかな発作がなくてもごく小さな脳梗塞があって、このために誤嚥しやすくなることもあります。こういった状況に気道局所の感染防御能の低下、体力の減退や栄養不良が加わり、一度にたくさんの病原体が吸引された場合に肺炎を発症します。根本的対策は、脳卒中を予防することと嚥下障害をいち早く見つけて予防的措置を講じることです。

 Q:家族や介護する者がふだん心がけなければならないのは、どんなことですか。

 A:在宅高齢者の肺炎のほとんどで口腔内常在菌が起炎菌になることを考慮すると、徹底した口腔ケアによって吸引される細菌数を減じる努力を惜しんではなりません。とくに夜間気づかれないうちに誤嚥してしまうことが主原因とされているので、就寝前の口腔ケアの実施が肺炎予防には最も有効です。

 Q:嚥下機能を改善させることはできないのですか。

 A:身体障害をもった高齢者では、現実的には目に見えるような改善は期待できません。寝たきりでない人に対して薬物療法で嚥下反射や咳反射を促し、誤嚥を予防しようという方法もありますが、医師による判断が必要です。

 Q:尿路感染というのはどういうものですか。

 A:肺炎に次いで多いのが尿路感染症です。尿を作る腎臓から尿管、膀胱、尿道を総称して尿路といいますが、この領域内に病原体が入り込んで悪さをするというものです。治療の基本は基礎疾患である排尿障害の改善です。この治療が困難な場合、残尿に対して一日1回、間欠的導尿を行うことで、膀胱の血流が改善し、膀胱機能の回復を期待できる場合もあります。飲水をすすめたりして相当量の尿量を維持することも有効です。ところで、クランベリー果汁には尿路感染菌の繁殖を抑える効果があるそうで、感染予防に試してみてもいいでしょう。

 Q:医療処置によって、かえって感染を引き起こすことがあるとのことですが。

 A:寝たきりで口からまともに食べられない患者には鼻から栄養補給用のチューブを入れますが、この管理が悪いと肺炎の発生を増加させます。腹壁から直接胃内に栄養補給用のチューブを留置することがあります。この場合でも、唾液の誤嚥と注入食の逆流による難治性の肺炎が発生することがあります。

 Q:必要処置とはいえ、体内に異物が長く置かれると感染症の元凶になるのですね。

 A:原則的にはそのように理解してください。たとえば、尿道から膀胱に入れておくチューブの汚染で高熱を伴う腎盂腎炎や、男性では急性前立腺炎、急性精巣上体炎などの感染症が併発します。予防は挿入部の清潔保持ですが、できれば入れて2週間以内に抜去するようにすべきです。そのほか、長期に持続的に点滴せざるをえない場合には、皮膚刺入部の感染、皮下トンネルの感染、菌血症が問題となります。患者をよく観察して、局所の発赤や腫脹、疼痛や不快感、熱発などに注意しましょう。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2007.2.22]