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〈本の紹介〉 在日朝鮮人の歴史と文化

状況の劇的変化に合う羅針盤

 本書は、解放後60年を経て、在日朝鮮人を取り巻く状況の劇的な変化を意識しつつ描かれたタイムリーな良書である。

 状況の変化とは何か。一つは、編著者が指摘するように冷戦構造の崩壊とともに朝鮮半島における統一の可能性が、とくに2000年の「南北共同宣言」以来、高まったことである。2つには世界的な人権保障の流れの広がりである。3つには、在日朝鮮人以外の在日外国人が増えてきていることである。

 さらに、在日朝鮮人社会自体の変化を挙げることができる。世代交代が急速に進み、日本生まれの2、3、4世が同胞社会の圧倒的多数を占めるようになった現実。そして、国際結婚の急増や「帰化」による日本国籍を持つ在日朝鮮人の増大などの要素をあげねばならない。

 祖国を皮膚感覚でとらえられる1世とそうではない次世代の間には、想像以上の隔たりが横たわっている。その最も大きな差異は、朝鮮人としてのアイデンティティの問題に関わる。言うまでもないことだが、その国に生まれ帰属する民族が同一の場合、自らのアイデンティティに悩むことはない。言語、風習、故郷、歴史、文化の共通の土台のうえに、生の営みはある。しかし、異国日本で生まれ、民族性の内実を、父母からの文化、言語の継承や民族教育によって培われた次世代たちには、常に、「朝鮮人」としての自らを問うぼう大なエネルギーと情熱が必要なのである。なぜならば、周囲には圧倒的な日本社会が存在し、油断していれば、同化させられ、その民族性を抹消されかねない状況にあるからである。

 本書は、そうした問題意識に基づいて、古代から近代に至る朝・日交流史、在日朝鮮人社会の形成、朝鮮半島分断の歴史、在日朝鮮人の法的地位、社会的諸問題、在日朝鮮人の民族教育と在日朝鮮人教育、朝鮮半島の統一と在日朝鮮人問題を概括して、その根本解決に鋭く迫っている。

 編著者の歴史研究者・朴鐘鳴氏は「在日朝鮮人問題を考えるとき、それは、朝鮮人自身が主体的に解決してゆくべき最重要な課題であるが、同時に、日本人自身が歴史−とくに、近・現代史の教訓に学び、日本の民主主義の名誉に関わるものとして解いてゆくべき問題でもある、という視座が必要であろう」と指摘している。全く同感である。しかし、現在の朝・日関係は最悪の時を刻み、安倍政権は「拉致問題の解決なしに国交正常化はない」と壊れたレコードのような発言を繰り返すばかり。近代日本が朝鮮で侵した極悪非道な歴史を顧みれば、日本政府がまず、何をすべきかはあまりにも明白であろう。総連や在日同胞に刃を向ける愚劣な弾圧は、国際社会の指弾を免れまい。(朴鐘鳴 編著、明石書店、TEL 03・5818・1171、2600円+税)(粉)

[朝鮮新報 2007.2.24]