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〈本の紹介〉 日韓 新たな始まりのための20章

「嫌韓流」克服の思考の種

 やっかいなテーマを全20章にコンパクトにまとめた本書を読んでいて、インターフェース(interface)という言葉がふと思い浮かんだ。パソコン用語では2つのものの間に立って情報のやり取りをするものという意味。

 しかし私の場合、この言葉は「仮面は未来と過去とをつなぐもの」「仮面は『神』と『人間』との交信を司るもの」という意味で、深く印象づけられている。近現代の朝・日関係、不幸な朝・日関係史を考えるとき、私には在日朝鮮人の存在そのものが朝・日間をつなぐ「仮面」のように思えてならないからである。これは、世界中の仮面を蒐集していた狂言師の故野村万之丞さんからのアドバイスを受けての、私なりの閃きである。

 いっとき、どこかの国の社会学者が在日朝鮮人は「見えない人々」と言ったことがある。

 昨今の日本マスコミの「北朝鮮バッシング」、インターネット上で拡散する「嫌韓」意識の背景にある人種主義、排外主義の激しさ、異常さは、「見えない人々」の痕跡すら消そうとしている。

 そればかりか、一部の「見えない人々」はそれに慄き自ら貝のふたを閉じようとしている。

 本書は、「『嫌韓流』への反論、批判だけではあまりに消極的で守勢的ではないか」との問題意識をもって、「『嫌韓流』を克服し、開かれた関係構築のための手がかりになるような思考の種を提供したい」との意図で編さんされている。

 本書の第一部では現代日本における『嫌韓流』現象、第2部では日本の朝鮮植民地支配、第3部では「在日コリアン」の歴史と在日外国人をめぐる問題、第4部では「日韓関係」が、それぞれトピックを取り上げながら、近年の研究動向を踏まえて、簡潔に論じられている。

 6者会談にようやく明るい進展が見えたものの、日本の不当な「北朝鮮経済制裁」は続いている。「いつか来た道」をまた歩むかもしれない、「ぼんやりとした不安」の中で、『嫌韓流』がレイシズム(民族差別)をもって歪んだ在日朝鮮人像を描いている現実を、これ以上容認することはできない。

 「『嫌韓流』現象が広がる背景には、明らかに現代日本社会の抱える不安がある。…そのとき、最も流れがちな方向の一つが、『敵』を見いだし、そこに不安の原因を投影し、それを排除」することであるということを、いま私たちは痛感している。

 過去そして現実と正しく向き合うことは、未来のために行うものであり、「自分自身の飛躍の可能性を含んだ豊かな冒険」であるという、著者らの呼びかけに応えて、「嫌韓流」を多角的、批判的に分析し、朝鮮と日本に関わる「思考の種」「歴史の見方」を共有する作業にともに参加してもらいたい。過去との対話、未来との交信は「仮面」たるものの本分だからである。(田中宏、板垣竜太編、岩波書店、1700円+税)(金明守 朝鮮総聯中央本部参事)

[朝鮮新報 2007.2.27]