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〈本の紹介〉 朝鮮半島「脅威」の構造 東アジアの非核・平和を求めて

地道な研究の重みと説得力

 ミサイル、核などをめぐり、マスコミによって「北朝鮮の脅威」「暴挙」がかまびすしく騒がれ、「圧力」「制裁」、はては「レジーム・チェンジ(政権交代)」論まで公然と主張されるまでになった日本。いきおい世論もそちらの方向へと導かれてゆく。朝鮮半島の情勢の緊張と不安が醸し出されているのは、すべて「北朝鮮」の責任にされているのが今日の現実である。

 しかし、そうした緊張激化を生み出している要因があるのではないか、朝鮮半島・東アジアの非核・平和を求める声と動きが近年、とみに大きな潮流になっているにもかかわらず、それが一向に実現しない理由があるのではないか、という根源的な視点から鋭く問題提起を行っているのが本書である。

 筆者は、朝鮮半島の平和を阻んでいるもの、統一を阻害するもの、そして東アジアの平和にとって決定的なステップといえる日本と朝鮮の国交正常化を阻むものは何か、米ソ冷戦構造解体後、四半世紀を経てなお、朝鮮半島の冷戦状況が解消されずに残っているのはなぜか、という疑問を突きつけ、それをあくまでも「事実」に即して解きほぐし、答えを提示している。

 本書は、朝鮮半島情勢をめぐる情勢について、朝米、朝・日、北南関係の3つに分類・整理し、それぞれ、朝鮮半島の非核・平和、朝・日間の国交正常化、北南朝鮮の平和統一は「できるか」と問う形式をとり、その相関関係を解明している。また、各章の冒頭で6者会談共同声明、朝・日平壌宣言、北南共同宣言の項を設けて解説しているが、この3つの基本文書こそ朝鮮問題の核心であると喝破している筆者独自のアプローチ、方法論となっている。そのうえで、誰もが関心を持つ緊要なテーマを取り上げ、日本的な「常識」が「非常識」であることを批判的、客観的に実証している。

 「現実社会、体制に埋没しないためのイデオロギー的批判精神」を自分の中で「たえず沸き立たせ、更新させている」のは、朝鮮問題にかかわる実際的活動である、と筆者は言う。

 実際に筆者は北、南、在日を含め「朝鮮問題」に長年、深く関わってきた。筆者の研究、評論活動は1980年から今日まで発行し続けている月刊「日韓分析」に集約されているが、本書は、およそ30年にわたる地道で緻密な情勢の研究・追究の蓄積を元にしているがゆえに、重みがあり、説得力がある。

 とりわけ、朝鮮問題を「かたちを変えた日本の問題」として捉え、朝・日国交正常化、北南の平和統一、その基盤のうえに東アジアの非核・平和達成をめざす実際運動の課題や要請に応えるためのたゆまぬ努力と情熱、そしてそこに共鳴する多くの仲間たちの支えこそ氏の「強み」である。朝鮮問題の貴重な入門書でもあり、「専門家」も見逃しがちなポイントをしっかりおさえているという意味で専門書としての価値も高い。(北川広和著、資料センター本郷、1500円+税、TEL 03・3814・4084)(崔鐘旭・ジャーナリスト)

[朝鮮新報 2007.2.27]